清水建設の欺瞞(1)欠陥の原因 建築基準法12条5項報告を読み解く トカゲのしっぽ切り

AMT一級建築士事務所代表
都甲栄充 氏

 杜の都の仙台でスーパーゼネコンの清水建設が事業主(施主)・設計・施工・工事監理・販売を一手に手がけたマンションで耐震上の重大な欠陥が発覚して、1年が経った。なぜ大手ゼネコンは施工ミスを起こしたのか。なぜ行政のチェック機能は働かなかったのか。なぜ住民は置き去りにされたのか。問題の全貌が浮かび上がるに従って、清水建設に通底する「欺瞞(ぎまん)」ともとれる不誠実な態度が明らかになった。欠陥は起きるべくして起き、放置されるべくして放置された。マンション管理組合の顧問建築として清水の不正を暴き、修繕工事を確約させる交渉をまとめた(株)AMT一級建築士事務所の都甲栄充代表による渾身のレポート第2弾(第1弾は2024年8月3日から4回掲載)を紹介する。

素人の施工

 まずはメディア初公開となる、清水建設の公式の言い訳を披露しよう。問題発覚後、仙台市が清水建設に求めた建築基準法12条5項に基づく「報告書」である。12条5項の報告は、行政庁が当該建築物が法に違反している可能性がある場合に提出を求めるものだ。

 欠陥が起きた原因について述べられている部分を、一部抜粋する(全文は画像参照)。
「延床10,000平方メートル、10階建てに対し、工期が約1年と極めて短期だった」
「作業所長が初めての社員と派遣社員1人という十分とは言えない配員」
「構造スリットの知識が不足…独断の解釈…構造スリットがなくても問題ないと解釈」

 開いた口がふさがらないとは、まさにこのことだ。多少の建築をかじった人ならお分かりだろうが、一言で言えば、ずさん。悪く言えば、マンション購入者をなめている。

 私は一級建築士として大成建設、住友不動産に計35年在籍し、原発やマンションなど、数多くの工事現場の管理・監理・監督に携わってきた。その経験から言えることは、建設現場の常識を無視した手抜き、怠慢な工事だったということだ。

医療過誤と同根

 分かりやすくするため、手術に例えて説明する。一世一代の大手術を控えた患者が、万全を期すため名医に高い手術代を払ってオペを依頼する場合を想像してほしい。手術室に入って全身麻酔をかけられた患者の手術に当たったのは、実は新人と担当外の医師の2人だけだったということだ。手術が終わると、名医は何事もなかったかのように患者に治療費を請求し、患者が医療過誤を疑っても、20年近く放置し続けてきたことになる。

 全社員の名刺裏に書かれた「子どもたちに誇れるしごとを」という清水建設のコーポレートメッセージが泣いている。

 冒頭の一文を思い出してほしい。このマンションは清水建設が事業主(施主)・設計・施工・工事監理から販売までを手がけた「オール清水」の物件だということだ。しかも、この物件は清水建設が仙台で初めて施工したマンションでもあった。「清水建設だから安心」と購入を決めた住民の気持ちを裏切り、今では逆に「清水建設だから不安」となってしまっている。

責任転嫁

報告書表紙

    清水建設が仙台市に提出した建築基準法12条5項の報告書には、抜け落ちている視点がある。それは、なぜ、ずさんな態勢で工事に臨んでしまったか、という点である。報告書は、不正工事が起きた原因を、新人所長や派遣社員による独断や知識不足で済ませようとしている。まさにトカゲのしっぽ切りだ。

 なぜ、知識不足の新人所長と派遣社員だけに工事管理を任せたのか、なぜ、知識不足がまかり通ったのか。真の原因は、不明のままだ。

 知識不足とされた「構造(耐震)スリット」は、30年前に起きた阪神淡路大震災で、ビルが多数倒壊したことで導入されることになった技術だ。建物の主要構造物である柱やはりを、地震の揺れから守る安全装置の役割をはたす。

 このマンションは、阪神大震災から数年しかたっていない時期に建設されている。報告書通りなら、建設に携わるプロが、震災の教訓である知識を身に付けていなかったことになる。最大手である清水建設が、その教育もしていなかったことにもなる。

 行政庁への報告書は、一通りの修繕工事(完全とは言い切れないが…。次回以降の記事に掲載)を終えた2025年3月に提出された。

 残念ながら、マンション住民で報告書の内容を知らされたのは、一部の管理組合理事だけだった。大半の住民は、今も新築時の欠陥工事が行われた理由の一部さえ、知らされないままである。

(つづく)


<プロフィール>
都甲栄充
(とこう・ひでみつ)
 福岡県北九州市生まれ、明治大学工学部卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年に(株)AMT一級建築士事務所を開設。主な資格は、一級建築士、管理建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引主任者、管理業務主任者、監理技術者、特殊建築物定期調査員。(一社)日本建築学会司法支援建築会議・元会員、東京地方裁判所・元民事調停委員(建築裁判専門)、(一社)日本マンション学会・元会員、八王子市マンション管理組合連絡会・元会長。

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