清水建設の欺瞞(2)見えない圧力 気がつくと解任状態

AMT一級建築士事務所代表
都甲栄充 氏

 業界最大手の清水建設が仙台市中心部で、事業主(施主)・設計・施工・工事監理・販売を手がけたマンションで欠陥が見つかった2024年3月の時点で、住民側に損害賠償請求権はなかった。すでに竣工から20年以上が経ち、民法上の時効(20年)が成立していたからだ。住民側の顧問建築士として清水建設と交渉にあたり、法的には不可能だった住民救済を実現させた(株)AMT一級建築士事務所(東京)の都甲栄充代表に、「見えない圧力」が襲いかかる。今回は都甲氏の周囲で起きた不可解な動きについて報告してもらった。

清水建設の反撃

「都甲さん、歩道を歩くときは車道から離れてください。電車を待つときも、最前列は駄目ですよ」

 清水建設の欠陥マンション問題をスクープした河北新報(仙台市)の記者から、電話で注意を告げられたのは、記事の初報が出て間もなくの24年7月ごろだった。

 記者によると、清水建設の本社広報の対応は、通常の取材と違った異様なものだったという。住民の不安への対処や原因究明、今後の対応について答えることは二の次で、それよりも、誰が情報を漏らしたかを執拗に迫ったという。さらに、住民の委託を受けて管理組合の顧問建築士になった私を卑下するような虚偽の評価を伝え、取材をやめるよう忠告してきたという。

 さすがに記者倫理があるらしく録音は聞かせてもらえなかったが、何かあったときのために保管しているそうだ。誤解のないように断っておくが、直近で私が身の安全に危険を感じたことはないし、清水建設から面倒なことを言われたこともない。

 とはいえ、記者の心配は杞憂とも言い切れない事態に発展した。清水建設の河北新報への広告出稿がストップし、マンション管理組合による「都甲外し」の気配が、住民らの間に充満し始めたのだ。
住民らの「変化」を語る前に、このマンションが置かれていた環境を再確認したい。

不可能を可能に

    最初に欠陥が疑われたのは、築6年経ったころだった。2階の角の部屋を所有する男性が異常な結露を指摘したところ、清水建設は「構造(耐震)スリットに防水処置がなかった」と施工不良を認め、改修工事を実施した。

 実際にはスリットが入っていないにもかかわらず、ウソをついていたのだ。スリットは、地震の揺れから柱や梁を守る構造上重要な設備で、入っていなければ、即建築基準法施行令違反になる重大なミスだ。

 その後も同じ住民から何度も異常な結露が報告され、管理組合が清水建設と交渉を重ねたが、抜本対策が取られないまま、マンションは築20年を過ぎた。組合から調査の委託を受けた地元の建築事務所は「清水建設を相手にするとほかの工事が受注できなくなる」と、及び腰になっていた。

 頼る先を失った管理組合の最後の望みとして白羽の矢が立ったのが、(株)AMT一級建築士事務所代表の私だった。前述した通り、法的な追及が困難な中、私が取った手法は、実態を明らかにして企業倫理に訴えかけるというものだった。

 顧問建築士の委託を受けた直後から、マンションの調査を始めた。図面から抽出して調査した構造スリットがあるべき場所85カ所のうち、74カ所で未施工、3カ所で施工不良が判明。正確に設置されていたのは8カ所だけだった。

 法的問題がどうという問題ではなかった。直下型地震に遭えばマンションが倒壊しかねない、住民の安全に直結する問題だった。

    動かしようのない調査結果を携えて交渉を始めると、清水建設は意外にもあっさりと施工不良を認め、補修を確約した。住民が交渉していた際に、10年以上いい加減な返答を繰り返していたことを考えると、専門家が交渉する必要性を改めて痛感もした。

手のひら返し

 補修費と迷惑料を合わせれば、住民側が得られるメリットは1億円近くになる見込みだった。住民から感謝されることはあっても、恨まれたり、嫌われたりする筋合いはないと思っていた。

 ところが、管理組合の理事たちの態度は私の想像とは違った。「後は清水さんがちゃんとやってくれるから」と、清水側に寄っていったのだ。顧問建築士として本領を発揮するのは、補修が始まってからだ。工事を監理し、手抜きや施工ミスがないようチェックする必要があるためだ。

 理事会のメンバーが替わると、「都甲外し」の動きは加速した。理事会や報告会にも呼ばれないようになり、現場の施工状況の報告もこなくなり、顧問契約(契約料ゼロ円)は25年3月、1年の期間が過ぎ、終了した。

再登板

 「住民側と清水建設がもめているらしい」との情報が入ったのは、顧問契約が切れたころだった。情報提供者は、清水建設の物件の独自調査を担った地元の会社の社長だった。

 マンションは清水建設による修繕工事が終わり、住民側と清水建設が合意書を取り交わす段階だった。ここにきて、修繕工事そのものへの疑問、住民側への迷惑料の額で疑問が生じていたという。

 調査会社の社長が取り次いでくれたことで、住民、管理組合に私を顧問建築士として再登板させるか諮られることになった。採決の場には、管理組合理事や住民合わせて12人が出席した。結果は11対1。圧倒的な賛成多数だった。私の再登板が決まった。

 反対の1票を投じたのは、私が離れている間に清水建設との交渉窓口だった、管理組合の理事だった。

(つづく)


<プロフィール>
都甲栄充
(とこう・ひでみつ)
 福岡県北九州市生まれ、明治大学工学部卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年に(株)AMT一級建築士事務所を開設。主な資格は、一級建築士、管理建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引主任者、管理業務主任者、監理技術者、特殊建築物定期調査員。(一社)日本建築学会司法支援建築会議・元会員、東京地方裁判所・元民事調停委員(建築裁判専門)、(一社)日本マンション学会・元会員、八王子市マンション管理組合連絡会・元会長。

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