【異色の芸術家・中島氏(55)】アトリエメモランダム「原稿を書く日々」

 福岡市在住の異色の芸術家、劇団エーテル主宰の中島淳一氏。本人による作品紹介を共有する。

 30年間、書き溜めた紙原稿を出版してみようと思ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。

 アトリエには、原稿用紙の束、大学ノート、黄ばんだ封筒、上演台本の断片、途中で放り出された小説のメモが、地層のように積み重なっている。まるで、自分の過去の亡霊たちに囲まれて暮らしているようなものだ。

 断捨離してしまえばよかったのかもしれない。そうすれば、こんなふうに、自分自身の原稿に追い詰められることもなかった。

 しかし、捨てられなかったのである。

 若いころ、徹夜で書いた1枚。劇場の楽屋で走り書きした断片。ジャズ喫茶で書いたシュールな詩。誰にも理解されなかった小説の冒頭。上演されることなく眠り続けた戯曲。

 紙には、単なる文章以上のものが貼りついている。時間であり、情熱であり、時には若さの愚かさそのものだ。

 友人に言われた。

「もったいないからAmazonに送ってみろ。返事なんか2、3日だ」

 軽い一言だった。

 私は半信半疑だったが、とりあえず始めてみた。ところが、これが想像以上に厄介だった。

 1冊出すと、次が気になる。すると、昔の原稿が目につく。「これはまだ使える」「いや、こっちのほうが面白い」。気がつけば、原稿の山を掘り返している。

 そして今、気づけば40冊出版していた。

 だが、片付いた感覚はまるでない。

 むしろ逆である。

 編集すればするほど、「まだある」が見えてくる。終わりが見えない。たとえば押し入れの整理に似ている。半分片付けたころに、「こんなものもあった」と懐かしくなり、結局、部屋が前より散らかる。あれに近い。

 私は毎日、14時間近く机に向かう。編集、書き直し、加筆・修正。原稿を読み返しているうちに、30年前の自分に腹を立てることもある。

「なぜ、ここで終わる」
「なぜ、この人物を消した」
「なぜ、肝心なところを書いていない」

 死んだはずの過去の自分と、毎日喧嘩しているようなものだ。

 睡眠不足になる。妙な時間に突然睡魔が来る。ソファで1時間気絶するように眠り、起きるとまた赤字を入れる。

 しかし、ふと思う。

 あのバルザックは、ほとんど徹夜が日常だったという。1日16時間、いや時にはそれ以上、コーヒーを浴びるように飲みながら書いた。

 そう考えると、私はまだ甘い。

 14時間で疲れたなどと言っていては、文学の神にも笑われるだろう。

 原稿に追われているのか、原稿に生かされているのか、自分でもよくわからない。

 だが、少なくとも1つだけたしかなことがある。

 まだまだ、狂人の域には達していない。

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