住宅の設計者とは?(後)知られざる施主と住まいへの愛(3)
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設計の楽しさだけにとらわれてしまうと、本当は住宅を設計するのが大切なのに、図面を描くという手段が目的になり始める。次第にやらなくていいことまで、そうするのが当たり前のような顔をしてやるようになっていく。“これは本当に住み手が望んでいることなのか…”─その設計が本当に「住むための設計」になっているかどうかは、常に自問自答していかなければならない。自分でも気づかないうちに、自己満足に陥っている恐れもある。
もしかすると住宅の設計はもっとおおらかで、「いいかげん」なものであっていいのかもしれない。「なぜだかわからないけど、ここにいると落ち着く…」──そんな心の動きに、建築家はもっと敏感になるべきだ。施主のことを思ってあれこれと苦心する設計者の愛情は、どこまで深いものなのか、建築家の“慈悲”について触れてみたい。⑦家との長い付き合い方
これからの長い人生を考えると、住宅にお金をかけすぎると経済的なバランスが崩れるかもといった心配がある。500万円くらいで家が建てば、人生設計の幅も広がるが…。
30~60歳くらいまでは、経済的な余力を残しながらやりたいことにチャレンジして人生を楽しむ、60~90歳くらいまでは、住まいを最適なフォーメーションに組み直してゆったりと過ごす、それが住まいと上手に付き合いながら、長い人生を楽しむ秘訣だ。しかし、建物にガタがくる、階段がキツくなる、草むしりも体力がいる、在宅医療・介護に適した間取りもあるだろう。60~70年分の人生を1つの家で、また一度の竣工で成すのは、なかなか難しいだろう。すると「家を2つに分ける」という発想が生まれる。30~60歳くらいまでの家と、60~90歳くらいまでの家。人生の残り3分の2以降を、2つの家で住み分けるという考え方だ。
60~90歳くらいまでの家とは、どうあるべきか。たとえば、それまで住んでいた自宅をリノベーションする方法や、60歳まで住んだ自宅を貸したり売ったりしてマンションに住み替えるという方法もある(詳しくは24年8月末発刊・vol.75『ポジティブシニア世代の“大人リノベ”』を参照されたい)。30歳までは「実家&一人暮らし」、60歳までは「夫婦で建てた戸建で主に子育て」、60歳以降は「両親が建て替えた実家で老後を楽しむ」など。人生100年時代を見据えた家の持ち方も、ライフシーンによって乗り換えていかなければならない時代に入ってきているのかもしれない。
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建築家は、そのときの依頼者の要望をできるだけ叶えていくという基本姿勢のなかにあり、それ以上の提案は自分へのリスクともつながる。望まれていない次元に足を踏み込むことになるわけだから、危険な仕掛けとなる。それでも発言を止めないのはなぜなのか?…おせっかいなのか、自己中なのか、はたまたただのお人好しか。
「設計者の愛情」とは、同じ価値観をもった間柄で発揮されるものだ。同意識レベルのなかで生み出される提案には“ありがたいと感謝…”できるが、価値観の違う人間と話を進めると“余計なお世話だ!”ということになる。設計者もいろいろな人間がいる。一般の方はおそらく理解されていないだろうが、建築家という人種は潜在的な可能性を常に探していて、施主にも見えていない正解を見つけることに喜びを感じるところがある。
そんな伴走者を選ぶことが、施主の大いなる決断ということになるのだが、そういう人間が設計の仕事をしているのだということを、事前に知っておいて損はないだろう。彼らは施主だけでなく、社会的にも良い答えになることを望んでいて、最適解を出し続ける手を止めない。その結果が日の目を浴びれば喜び、効果を感じてもらえなかったら、それはそれで仕方がないと思っている、献身的で無類の変人なのだ。
(了)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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