「東京一極集中」を読み解く 東京と地方の建設的な未来はどこにあるか(後)
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(一社)東京23区研究所
所長 池田利道 氏総務省が7月に発表した2024年1月1日現在の『人口動態調査』によると、23年の1年間で人口が増えたのは、東京都(0.51%増)、沖縄県(0.01%増)、千葉県(0.00%増)の3都県だけ、日本人に限ると東京都だけとなった。ちなみに東京23区は、東京都全体を上回る0.77%増。コロナ禍のもとで21~22年に2年連続で日本人人口が減少し、「曲がり角に入ったか」といわれた東京一極集中は、再び元に戻る結果となった。
東京不戦勝「未来なき地方」の意識
だが、今世紀に入ってからの動きは景気との連動という理由だけでは説明しがたい部分がある。なるほど景気循環論的にいえば、転入超過数が多かった2000年代初めからリーマン・ショックまで時期は「いざなみ景気」に、転入超過数が再上昇した東日本大震災後の10年代は「アベノミクス景気」にあたっている。
しかし、いざなみ景気もアベノミクス景気も「実感なき好景気」といわれる。失われた30年が続き、格差社会が拡大したこの時期、多くの人々にとって東京ドリームなど夢のまた夢となってしまった。にもかかわらず、転入超過数が増えたのはなぜなのだろうか。
内閣府が「国民生活に関する世論調査」において継続的に問い続けている、今後の生活が「良くなっていく」と思うか、「悪くなっていく」と思うかの結果をみると1つのヒントが浮かび上がってくる【図2】。
かつて日本人は、一時的な例外を除き将来は今より「良くなっていく」と考える人の方が多かった。しかし、1990年代半ばに両者の関係が逆転し、今世紀に入ると「良くなっていく」は概ね1割以下にとどまるのに対し、「悪くなっていく」が25~30%程度を占めるようになった。
未来は暗い。地方の未来はもっと暗い。そんな不安に捉われた人たちが東京に集まってくる。東京が人々を引き寄せたかつてとは異なり、今や地方生活への不安が東京に人々を集めている。実質賃金は上がらず、格差が広がり、人口が減り、衰退の坂道を転がり落ちようとしている我が国のなかで、もはや頼みの綱は東京だけ。東京に集まり続ける人たちの心のなかにそんな思いがあるのだとしたら、「東京1人勝ち」とは東京の「不戦勝」を意味していることになる。
東京の「ポンプ機能」 地方への還流
この歪な東京と地方の関係を打ち破ることができるのは、リーマン・ショックや東日本大震災あるいはコロナ禍級の「負のインパクト」しかないとしたら、ことは極めて深刻だ。ならば、地方から東京への人の流れを一たん認めたうえで、より建設的な未来を描き出すしかない。
視点を変えて地方圏から東京23区への転入者と、東京23区から地方圏への転出者の年齢別の構成をみてみよう。転入者は20代が56%と過半を占め、30代が17%でこれに次ぐ。20代と30代を合わせると、全体の4分の3におよぶ。転出者は転入者と比べると幾分若い人の集中度が低くなるが、それでも20代が36%、30代が23%、両者合計でおよそ6割。人口の社会移動とは実は20代、30代の若い世代のキャッチボールなのだ。上記は2023年のデータであり、コロナ禍の影響がまだ多少残っている可能性も否定できないが、コロナ禍前の時期と比べても大きな変りはない。
実数でみると、20代と30代の合計で転入者が約14万5,000人、転出者が8万人。もちろん転入者の方が多く、これが東京の人口増の主たる要因となっているのだが、転出者の数も結構多い。転出していった先は、UターンやJターンが多いであろうことは想像に難くない。
進学、就職、転職などを契機に東京に移り住んできた若者たちは、人生で最も多感な時期を東京で過ごし、そこで得た知識や経験を携えて故郷に帰り、地方に活力を吹き込む牽引役をはたしてきた。故郷に帰らず東京に残り続けた若者たちは、結婚し子どもができると、より広い住まいを求めて東京圏郊外部に居を構え、郊外部の発展を担う役割をはたしてきた。
いわば東京は全国に活力を配分するポンプの役割をはたしてきたのだ。「東京1人勝ち」「東京不戦勝」といってもその褒賞は東京が独り占めしてきた訳ではない。地方にも確実に還流している。この流れを今より以上に活発化させていくこと。東京と地方の建設的な未来を築くカギはここにある。
ソーシャルビジネスへの期待
東京と地方の建設的関係構築そう考えると、東京での大学新設の規制は後ろ向きであまり意味がない。企業本社の移転誘致も、新たな勝ち組と負け組をつくるだけという面がなくもない。もっと草の根的に働ける場をつくり出していくことが大切だ。
今後確実に拡大していくことが予想される歳老いた親の介護、介護までには至らなくとも自動車での移動をはじめとする老親の生活サポートを考えると、出会いの場が多い東京で生涯の伴侶を得、結婚後の30代でUターンやJターンを行うというかたちを増やしていくことも大きな課題となる。このとき、とくに留意すべきは女性が活躍できる場を増やしていくことだ。これまで培ってきた知識や経験を活かして女性が活躍できる場は、東京と比べ地方では大きく制限される。
その意味で筆者が期待しているのはソーシャルビジネスあるいはコミュニティビジネスと呼ばれる分野の拡充である。ソーシャルビジネスといってもビジネスである以上、経理、広報・宣伝、営業など専門の知識や経験が必要な分野が多数存在する。
内閣府の調査によると、08年におよそ2,400億円だったソーシャルビジネスの市場規模は、15年には事業収益10.4兆円、付加価値総額16兆円、有給社員578万人に成長しているとされ、今後さらなる成長が期待されている。しかもその内容は、地産地消の促進をはじめとした地域起こし活動、子育て支援、高齢者・障がい者支援、子ども食堂などの貧困者支援、教育支援、環境保護など、地方生活との親和性が高い分野が多い。
「東京一極集中」という現象に目を奪われるのではなく、「ヒトづくり」という視点に立って、東京と地方の関係のパラダイムシフトを図ること、それこそが今求められている最も大切な課題といえるのではないだろうか。
(了)
<プロフィール>
池田利道(いけだ・としみち)
1952年生まれ。(一社)東京23区研究所所長。東京大学大学院都市工学科修士課程修了後、東京都政調査会研究員などを経て、(株)リダンプランニングを設立。東京23区を中心とするマーケットデータの収集・加工・分析を手がける。著書に、「23区格差」(中公新書ラクレ)、「23区大逆転」(NHK出版新書)、「なぜか惹かれる足立区」(ワニブックスPLUS新書)など。法人名
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