2025年01月30日( 木 )

日本はトランプ氏とともに世界を保護主義、国際主義へと転換させるべし(前)

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京都大学大学院教授 藤井聡 氏

米国分断下のトランプ勝利 媚米外交は最悪の悪手

京都大学大学院教授 藤井聡 氏
京都大学大学院教授
藤井聡 氏

    今日の米国においては共和党と民主党の支持者の間には「内戦」(シビル・ウォー)と表現される程の対立があり、国民の分断は極めて深刻化している。この分断のそもそもの原因は、民主党、およびその支持者は、LGBTやグローバル化等についての「理想主義」を過剰に掲げ、現実的な問題解決を蔑ろにする傾きが強い一方、共和党、およびその支持者はその逆に、理想主義よりもむしろ「米国国民」にとっての現実的な問題解決を重視する傾向にあることだ。

 かくして先の大統領選挙においても、両陣営はその支持者も含めて激しく互いを非難する選挙戦を展開したのだが、最終的にトランプが勝利した。このことはつまり、アメリカ人は今、机上の空論の理想主義の実現よりも、自分たちの暮らしを守る現実主義路線の政治を選択したことを意味している。

 もちろんバイデン民主党も現実を完全に無視するわけでもなく、トランプ共和党も理想を完全に無視するわけでもない。しかし両者の間には埋めがたい差違が存在するわけだが、それにも関わらず、現石破政権がその基本方針を引き継いだ前岸田政権は、岸田文雄氏が総理大臣の席についたときの大統領が「たまたま」民主党のバイデン大統領であったという程度の理由からとしか思えないほどの必然性無き流れのなかで、バイデン氏の政策方針に完全に迎合する政治を内政外交ともに展開した。

 バイデン氏の意向にそって、従来の対ロシア外交の歴史をすべてゴミ箱に捨て去るかのような激しいロシア批判を展開し、日本のすべての歴史を無視するかのようにしてLGBT法案を成立させた。さらには、自身の後継総理を決める総裁選挙においても、わざわざその投開票直前にホワイトハウスまで出向き、バイデン氏の意向を確認し、その意向に忠実に従うべく、高市早苗氏「以外」の人物を日本の総理に仕立て上げるために、彼自身の「キングメーカーとしての政治的パワー」を全力で投入したとさえ、しばしば囁かれている。

 そうして岸田氏はバイデン氏の意向を汲むかたちで石破政権を樹立させ、自らの方針のすべてを引き継ぐように仕向けたわけだが、そんな石破茂氏の「はしご」を外すかのような格好でバイデン氏がホワイトハウスから退出し、トランプ氏が米国大統領となることとなったのが今回の米大統領選挙であった。

 トランプ氏がバイデン・ハリス氏の方針を180度転換させることは既定路線だ。ウクライナ戦争は終結の方向に舵が切られるだろうし、LGBT推進や地球温暖化対策や移民推進策も抑制されることになろう。

 そんな状況下で、日本の総理は如何なる方針でトランプ大統領率いる米国と対峙していくべきなのか。

 いうまでもなく、これまで岸田氏が繰り返してきたように、とにかく米大統領のご機嫌を取り、忖度し、米大統領が喜ぶ内政外交を展開し続けていてよいはずがない、そんな媚米の態度を継続しているだけでは、日本は搾取されるだけ搾取され、国益は激しく毀損するほかない。

 おおよそトランプは「アメリカファースト」を主張し、同盟各国に、防衛力や消費(あるいは需要)についてのアメリカ依存を辞めるように仕向け、同盟各国が自発的に防衛力や消費(需要)を高めるように主張している。

 そんなトランプに対して、防衛や経済についての「自立」を何も考えずに、ひたすらアメリカにすり寄り依存し続けるような外交が続けば、日本はアメリカが提供する防衛力や消費(需要)を、これまで以上の「高値」で購入し続けざるを得なくなる。つまり、岸田流の依存一辺倒の媚米外交は、バイデンには一定通用してもトランプにはまったく通用しないのであり、それにも関わらず、自国の自立性を高めず、ただただ依存し続ける姿勢を継続されれば、日本はより激しく搾取される他なくなるのだ。

 だからこそ、日本は“アメリカファースト”を掲げるトランプ大統領ならびにバンス副大統領が率いる米国に対して「自主独立」の姿勢を打ち出しながら対峙していかねばならないのであり、それ以外に日本が「地獄への道」を回避する方途はありえない。日本はついにそこまで追い詰められた状況にあるのだ。

(つづく)


<プロフィール>
藤井聡
(ふじい・さとし)
1968年奈良県生駒市生まれ。91年京都大学工学部土木工学科卒業、93年同大学院工学研究科修士課程修了、同工学部助手。98年同博士号(工学)取得。2000年同大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年同大学教授を経て、09年から京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年同大学レジリエンス研究ユニット長、12年同大学理事補。同年内閣官房参与(18年まで)。18年から『表現者クライテリオン』編集長。著書多数、近著に『安い国ニッポンの悲惨すぎる未来─ヒト・モノ・カネのすべてが消える──』(経営科学出版)。

(後)

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