【BIS論壇】骨董事始め

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は5月27日の記事を紹介する。

 商社のインド・ニューデリー駐在時代、東京本社の非鉄金属部長から下記の指示がきた。会社の重要得意先の社長がインド向け消火用スプリンクラーおよびハンダの売り込みで訪印される。この社長は東大経済学部河合栄治郎教授門下の秀才で、ビジネスだけでなく、東西の芸術文化にも詳しく、とくにイランとインドの古美術、骨董の有名な収集家でもある。鎌倉の自宅の山に収集された古今東西の美術品、骨董の美術館も所有。さらに発展途上国の美学生に奨学金を提供。日本への留学の支援もしておられる。東西の骨董に関する著書もある。さらに国際ロータリークラブの国際理事長としても活躍中である。

 ニューデリーでのビジネスが終了したら、印度博物館、美術館、骨董店など訪問希望ゆえ、注意しつつ同行されたい。ただし好き嫌いが激しい方ゆえ、社長の接待、対応にはくれぐれも留意するようにとのことであった。

 商談終了後、社宅にお招きし、妻が日本食を準備した。応接間に入るなり、一瞥し、商社の支店長にしては本棚に本が少なすぎ、ろくな本もないと一喝された。さらに立てかけてあるゴルフ道具を一瞥し、「宗教、芸術の宝庫のインドにきて週末日本人同士でゴルフやマージャンにうつつを抜かすなどもってのほかだ。ゴルフもマージャンもやめて週末は博物館、美術館、骨董店を訪問し、インドの美術、芸術を勉強すべきだ」と力説された。

 以来、妻ともども練習していたゴルフをきっぱりやめ、この社長のアドバイスに従い、週末は妻ともども美術館、博物館、骨董店を訪問し、インドの美術、宗教の勉強を始めた。

 さてこの社長が、インド骨董店で求められた1500年の歴史を有するという3体の仏像を航空会社が重いので1体しか受け入れないということになった。社宅に2体の仏像を持ち込み、3カ月骨董屋から借りたので、3カ月朝晩眺め、魅力を感じたならば購入しなさいと筆者とニューデリー支店次長にアドバイスがあった。この仏像に引き入れられ、本物ではないかと信じ、この仏像を購入することを決めた。以来インド駐在中、細密画、真鍮の仏像なども購入を始めた。インドより帰任後、この仏像を自宅の玄関に置き、40年間日夜鑑賞し、インド駐在時代を懐かしく思い出している。

    この社長には気に入られ、以後、筆者の駐在先のブラジル、カナダ、米国NYを訪問いただき、一緒に現地の博物館、美術館、骨董店を訪問。長年にわたり、夫婦ともども骨董収集をご指導いただいた。そのおかげで我が家では海外駐在8カ国、20年間に収集したかずかずの骨董に囲まれ、海外の思い出に浸っている毎日である。

 この噂を聞かれたアジア民族造形学会の会長さんが先日、我が家をご訪問され、8月の同学会で「私の骨董事始め」と題し、講演させていただくことになった。不思議なご縁に
筆者を骨董の道に案内いただいた千住金属工業の故・佐藤千壽元社長に深謝する次第である。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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