人体の加齢と健康長寿、20歳から100歳までの身体機能マップ(6)90歳以降の維持ロードマップ

 人は何歳から老い始めるのか。筋肉や骨は若年期にピークを迎える一方、語彙力や状況判断力は60代まで伸びるなど、身体機能の加齢曲線は一様ではない。本稿では、公的統計や学会ガイドライン、査読論文を基に、20歳から100歳までの変化を臓器別・年代別に整理。健康寿命を延ばすための実践策や、90歳以降に機能を維持するための要点を紹介する。
 ところで、医学情報の最大の落とし穴は、確立された事実と、有望だが未確定の仮説が同じ調子で語られることである。本レポートでは、すべての記述を以下の三段階で区別し、本文中に記号で示す。

表0

予備能が小さい段階での実践的指針

 本章は、90歳以降という特殊な段階に焦点を当てる。この年代の医学的な目標は、若年期とは根本的に異なる。疾患の根治ではなく、機能の維持と急激な低下の回避が中心となる。

6-1 目標設定の転換

表1

6-2 「悪化の引き金」を管理する

 90歳以降で機能が急落する場合、その多くには特定可能な引き金がある。逆にいえば、これらを予防・早期対応することで急落を回避できる可能性がある。

表2

90歳以降で最も守るべき一線
 「数日間、ほとんど動かない」という状況を作らないこと。
若年者であれば数日の安静は問題にならない。しかし予備能の小さい高齢者では、この数日間で歩行能力を失うことがある。風邪で寝込む、骨折で入院する、猛暑で外出を控える──いずれも、「安静にする」ことがそのまま機能喪失につながりうる。
 寝たままでも足首を動かす、座位の時間を作る、短時間でも立ち上がる。医学的に許容される範囲で動きを維持することが、この年代の最大の防御である。

6-3 週単位・月単位のチェックリスト

 90歳以降の維持は、年に一度の健診では追いつかない。変化の速度が速いため、より短い周期での確認が必要である。

表3

家族・介護者へ
 この年代の変化は、本人が最も気づきにくい。食事量の減少、外出頻度の低下、会話の減少は、本人にとっては「なんとなくそうなった」程度の認識であることが多い。客観的な記録(体重、食事量、外出回数)を残しておくと、受診時に医師へ伝えられる情報の質が大きく変わる。ただし、監視ではなく本人の意思と尊厳を尊重したかたちで行うことが前提である。

(つづく)

【Hayate Kirishima】

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