緊張の高まりで需要増の韓国防衛産業(後)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

50年前は小銃の生産もできなかった

 韓国初の武器輸出は1975年にフィリピンに6億ウォン規模のM1小銃の弾薬を輸出したことだった。その後、50年が経過した現在、韓国の防衛産業は目を見張るほどの成長を遂げている。

 北朝鮮と対峙している韓国にとっては、北朝鮮の脅威から国を守るため、武器の開発と生産は最優先課題であった。ただ、防衛産業はどちらかというと国内需要を満たすためのものであり、輸出などは考えていなかった。しかし、数年前から状況は一変。武器は韓国の輸出の主要品目となりつつある。ハンファエアロスペース1社の受注残高だけでも32兆4,000億ウォンとなっており、そのうち68%は海外向けの輸出で占められている。

 このように韓国の武器輸出が著しい成長を遂げているなかでも、まだ大きな実績のない分野があった。海洋分野である。韓国は造船業が発達しており、世界屈指の造船会社が数社ある反面、HD現代重工業とハンファオーシャンは、まだ大規模な海外受注に成功していない。両社は今後、タッグを組んでカナダ(70兆ウォン)と ポーランド(8兆ウォン)の艦艇受注に挑む。

 これよりも、もっと大きな市場が米国である。トランプ大統領は米国単独では中国の造船産業に太刀打ちできないと判断し、韓国に協力を求めている。協力関係がうまく成立すれば、今後、韓国企業は米国から艦艇の受注はもちろん、艦艇の修理やメンテナンスの仕事を受注できるようになるかもしれない。

 米国上院は外国企業でも米国の軍艦を建造·修理できるようにする法案を発議した。米海軍は2054年に1兆750億ドルを投入し、軍艦などを新しく建造する予定である。

韓国の武器が支持される要因は

 韓国のように50万人もの軍隊を保有する国は、それほど多くない。韓国では国内需要を満たすためにも、大量生産体制を敷いた。多額の設備投資はいうまでもなく、工場の自動化にも取り組んだ。その結果、価格は安くなり、生産が迅速に行われるようになった。

 韓国は国を守るため数10年間、防衛産業の育成に全力を注いできた。そこに半導体などの技術も加わり、武器の性能も高まった。一方、ヨーロッパなどでは過去数10年間、戦争がなかったため、防衛産業は衰退し、多くの企業が淘汰された。韓国はその結果、防衛産業の技術力が高くなり、武器生産システムも高度化している。韓国は他国に比べ、納期が早く、価格は安く、性能が落ちない良い武器を納期通りに納品できる数少ない国の1つになったわけだ。

 ポーランドが良い例であるが、ウクライナ・ロシア戦争によって安全保障に脅威を感じている。そのため、できるだけ早く、軍の設備を近代化したいと考えている。米国は納期が合わず、ドイツも防衛企業が少なくなっており、納期を守れる企業が存在しない。そのような状況下で、韓国の武器が良い選択肢となっている。韓国は武器の輸出を半導体、車載電池、自動車に次ぐ新たな輸出エンジンへと育てようとしている。

韓国武器輸出の課題と弱点

 武器を輸出しているものの、韓国の武器輸出には課題もある。エンジンやソフトウェアなど武器のコア技術を外国に依存している点である。そのため技術を保有している国から輸出の承認を受けないといけない事例が多発している。自走砲の場合、ドイツのエンジンを使っており、ドイツ政府の承認を取る必要がある。過去には自走砲の承認がおりず、中東への輸出を断念した例もある。

 運用システムなどを外国に頼っている場合、独自の運用が難しくなる。最近はソフトウェアのコストが全体の費用の4割くらいを占めているので、ソフトウェアを独自開発することが求められている。その他にも部品の海外依存やAIやドローンの活用が武器の運用において、大事になってくるが、韓国はAI技術においては出遅れている。

(了)

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