【トップインタビュー】美容医療の分野で潜在的ニーズを切り拓き質の高い診療サービスの全国展開を目指す

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(一社)AND medical group
代表理事 草野正臣 氏

 2020年に設立された(一社)AND medical groupは美容医療の分野で急成長を遂げ、現在全国で24のクリニックを展開している医療グループ。近年、美容医療は医療分野のなかでもとくに存在感が大きくなっている。その可能性について、同法人代表理事の草野正臣氏に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)

美容医療での急成長 分野を絞って飛躍

(一社)AND medical group 代表理事 草野正臣 氏
(一社)AND medical group
代表理事 草野正臣 氏

    ──アンドメディカルを立ち上げた経緯を聞かせてください。

 草野正臣(以下、草野) 私たちは最初から自由診療に特化した美容医療を提供したわけではなく、もともとは保険診療のクリニックに始まります。その後私の知人が新宿で自由診療クリニックを開業していて、1人で規模を拡大していくことは大変だということで運営を手伝い始めたのが最初です。

 私自身はドクターではありませんが、私の父がドクターであったり、また医者になる人間が多い学校に通っていたこともあり、同級生にも数多くドクターがいました。その人脈やネットワークから始めて、2020年に(一社)AND medical groupとして法人化しました。

 ──業績は急成長されていますね。早い段階から軌道に乗っていたのですか?

 草野 いいえ、業績が伸びだしたのはこの3年くらいです。美容医療は6年くらい前からやっていました。美容医療と一口に言ってもいろいろな分野があり、最初は手広く何でもやろうとして試行錯誤していましたが、正直なところあまりうまくいきませんでした。

 そこで、3年前ぐらいにまず代表医師の専門である泌尿器科に絞って注力してみたところ、集患がうまくいきました。東京だけではなく全国でニーズがあることがみえてきたので、まず泌尿器科をベースにクリニック数を増やしていきました。

 ですので現状としては売上の半分以上が男性顧客で、男性のニーズとしてはやはり泌尿器治療が多く、そのほか脱毛などもニーズがあります。今はそのバランスを取るべく女性層にも注力しています。そして、それらの実現に向けて、リソースを集中するため、男性泌尿器部門は、昨年12月3日付で事業譲渡契約を締結しました。今後は、女性の比率が増加していくとは考えています。なお、売上は今期には200億円に到達すると考えています。

美容医療の市場可能性と拡大に向けた課題

 ──今後も拡大を続けられますか。

 草野 当グループとしてまだ進出していないエリアがあります。目標としてはできれば各県に1つずつ、需要があるエリアに対して重点的に開設していきたいと考えています。

 ──急拡大にあたっては人材の確保が課題になるのではないでしょうか。

 草野 おっしゃる通りで、ドクターの採用が課題です。とくに地方では大きな課題になります。それについては、給与などで良い条件を提示し、かつ教育プログラムも充実させて採用を進めていくことを考えています。

 ──同業者との差別化についてはどのように考えていますか。

 草野 当グループは泌尿器治療で成長してきましたが、美容外科の王道としては、目の二重の手術や、鼻の手術などがあります。そのような分野にも今後は積極的に手を出していくつもりですが、むしろ大手同業者があまり注力してないような分野、たとえば、女性の泌尿器治療や、痩身治療、それから植毛などといった分野も開拓していければと考えています。

 王道の美容外科は需要がありますが、その一方でリスクもあります。たとえば、医療事故や副作用、それから自分が思った通りにならなかったといった顧客からのクレームなどがたびたび発生します。それからドクターやナース、カウンセラーの教育も重要です。よって王道の分野は、ある程度時間がかかる分野であり慎重な取り組みが必要だと考えています。

 ──集客はどのような方法で行われていますか。

 草野 主にインターネットで行っており、LINEやTikTokそれからインスタグラムといったSNSを利用しています。

 ──市場の可能性についてはどのように考えていますか。

 草野 美容医療についてはまだまだ潜在的に大きな市場があると考えています。今まで美容医療に興味があったけれど、なかなか門をたたくまではいかなかった人が、相当数いるということです。5年前、10年前と比べて美容外科、美容クリニックに対するイメージ、また、美容クリニックの施術を受けている人に対するイメージはだいぶ変わりました。

 かつては、美容整形手術をすることや、する人に対しても否定的な風潮が日本にはあったと思います。しかし、美容医療大国である韓国の文化が日本にも入ってくるようになり、その影響を受けて日本でも美容医療に対するハードルはかなり下がってきていると感じます。

 美容医療をどのように見なすかというリテラシーについては、女性ばかりでなく男性でも向上しており、たとえば男性でも化粧をしたり、定期的にレーザー治療を受けに行ったり、脱毛する人も増えてきています。よって需要はこれからさらに伸びていくと考えています。

美容大国、韓国の影響 医療を変える美容医療

 ──美容医療を受けるためにわざわざ韓国に行くという話をよく聞きます。日本とは何が違うのでしょうか。

 草野 まず費用が安いということがあります。それから日本にまだ入ってきていない機器が韓国では使われたりします。美容医療の分野では、薬剤や医療機器も含めていまだに韓国が一番進んでいて、ほとんど韓国から世界中に出ているため、韓国に行けば最先端の医療機器が体験できたりします。新しい治療法を求めていく人と、既存の治療法でも費用が安いですし、航空運賃もLCCなどだいぶ安いものがありますから、旅行がてら美容医療を受けに韓国に行く人が多いのです。

 ──日本の美容医療も韓国に追いつきつつあるのでしょうか。

 草野 追いつきつつあると思います。近年は美容医療を目指すドクターも増えていますから、技術面で優秀なドクターの数も明らかに増えていると思います。一方で、薬剤の製造については法的な規制があり、日本では製造できないため韓国から輸入するしかないというものもあり、薬剤開発では韓国が進んでいます。

 先ほど、美容医療のイメージが変わってきたという話をしましたが、それはドクターの間でも大きく変わりました。かつては美容医療というと医療のなかでも傍流と見なされていましたが、今では毎年医学部を卒業する新卒のドクターのうち、300名近くが美容医療を目指しており、その数は年々増えております。学会などでも美容外科学会は盛況です。ただし、美容医療を目指すドクターが増加していることは、他の分野のドクターの不足を招いているとして問題視されている点でもあります。

 ──現状での課題はどのようなものがありますか。

 草野 美容外科におけるドクターの技術レベルの向上は常に課題です。全国に規模を拡大すると、技術レベルを全国で均一に保たなくてはなりません。そのための教育プログラムをきっちりつくっていかなければならないというのがあります。そこで指導医制度だったり、グループ内である一定の水準をクリアしたドクターでなければ、たとえば、まぶたの二重の治療ができないとか、教育モデルをつくっていますが、仮に誰かが抜けても、常に同じようなレベルを保っていかないといけないので、ドクターのレベルの担保は非常に大きな課題だと感じています。

 あとはサービスとしてのホスピタリティの質の向上も重要な課題です。かつてとはだいぶ変わってきたと思いますが、医療従事者と患者の関係で、医療従事者側が立場が上とでもいうような意識が医療の世界にはあると思います。

 しかし、お金を払っている患者さんは実際にはお客さまで、その方たちに対してあくまでもサービス業としておもてなしの意識が必要だと考えています。ですので、グループ全体でサービス業としてのホスピタリティを身に着けてもらうことには注力しています。

自由診療としての美容医療の可能性

 ──海外から美容医療を受けに来るインバウンドへの対応はどうですか。

 草野 インバウンドへの対応も注力していくつもりです。日本から韓国に美容医療を受けに行く人が多いとお話ししましたが、逆に韓国で法的に受けることができず、日本では受けることができる美容医療もあります。

 たとえば、幹細胞を利用した再生医療などがそれにあたります。ただし、再生医療はとても可能性がある分野だと思いますが、症例数も少なく、トラブルも全国で起きており、慎重さが必要です。やはり、効果についてある程度はっきりとしたエビデンスが必要だと思います。エビデンスが取れれば、市場としては非常に可能性があると思います。

 ──その他に戦略として今後取り組みを考えている分野はありますか。

 草野 自社ブランドでの商材(化粧品等)の取り扱いは検討したいと考えています。ただし、メインの商材としての大きな取り扱いというより、私たちはあくまでも診療がメインですので、たとえば、当院に来られるお客さまに対してアフターフォローとしてご利用いただける化粧品を提案することは、ニーズがあることだと思います。

 ──高齢者に特化するなど年齢別の戦略はありますか。たとえば、高齢の社長さんが、垂れ下がった瞼を手術して目元がすっきりした人をたまに見かけるようになりました。

 草野 とくに現時点で年齢別の戦略を考えているわけではありません。瞼が垂れ下がる症状は、眼瞼下垂といって、加齢が原因で発症することが多いと言われています。これは見た目の問題もさることながら、瞼が垂れ下がることによって視野の一部にかかり上方向のものが見えにくくなるため、目の疲れや肩こり、頭痛などさまざまな症状を引き起こします。

 自由診療では、そういった医学的な必要性だけでなく外見の改善、患者さまの希望に応じたかたちにすることが可能でして、さらに予防するための治療としてのニーズもとてもあると思います。

(一社)AND medical group    ──自由診療としての美容医療の可能性についてはどのように考えていますか。

 草野 美容医療の世界というのは、毎年毎年、新しい治療法や機器、薬剤が次々と出てくる世界です。通常の保健診療分野の医療だと、薬が開発されて出てくるのに10年や20年のスパンがかかりますが、美容医療の分野では短いサイクルでいろいろな新しいものが出てきます。そのような可能性の世界として美容医療は本当に面白いと思っています。

 現状としては韓国が、美容医療の分野で一番強いですが、それはさまざまな機器や薬剤の新規開発に関して、非常に意欲的な企業が韓国には数多くあり、そこから世界中に供給されているものがたくさんあるためです。中国でもそれを参照してコピーモデルみたいなものをたくさんつくっていますが、技術力はまだまだ韓国が高いのと薬剤や機器が承認されるまでの期間も短いようで、そういうことも背景にあって韓国が美容医療の分野で現在も最先端を走っています。

 自由診療の可能性という点についていえば、保健診療制度がある意味、崩壊の危機に瀕しているという面もあります。また、通常の保険診療ではやりたくてもできない治療もあります。しかし、保健診療と自由診療を併用して行うことは混合診療として原則認められておらず、その結果として、治療の現場で使いたい薬も使えないといったことも生じる場合があります。

 自由診療であれば、日進月歩で進歩する治療法や薬剤、機器を保健診療よりも比較的自由に使うことができますし、要望に応じて、細かな検査なども実施することができるため、患者さまの体質や状態に合わせた診療が受けられる可能性がありますし、治療回数についても基本的には制限がありません。そういった背景から、安心安全に「患者さまのお悩みを1つでも取り除き、自分をより高める」ことのできる医療である美容医療にはとても大きな可能性があり、まだまだ潜在的な市場がある医療分野として、今後さらなる拡大が期待できると考えています。

【文・構成:寺村朋輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:草野正臣
所在地:東京都港区六本木7-14-7
    六本木トリニティビル6F
設 立:2020年7月
売上高:(24/9)178億円
URL:https://and-mg.com


<プロフィール>
草野正臣
(くさの・まさおみ)
2007年3月に早稲田大学卒業後、国内大手通信関連企業に入社。14年同社退社後、医療施設マネジメントを主たる事業とするベンチャー企業設立。20年(一社)AND medical group設立と同時に代表理事に就任。その他、医療人材DX会社の設立、事業譲渡等を経て現在に至る。

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