日鉄興和不動産が農業参入 スマート農業など九州で

 日鉄興和不動産(株)は12月12日、農業事業への新規参入と新会社「日鉄興和不動産農業(株)」の設立を発表した。第1弾プロジェクトとして、同社が持つ北海道室蘭市の遊休地でリンゴの栽培を開始。将来的に熊本や北九州など九州エリアで、スマート農業の実証など新技術の開発を検討する。同社は「アグリデベロッパー」として農業を事業の新たな成長分野と捉えており、地域経済の活性化と持続可能な農業モデルの構築を目指す。

北海道室蘭市の開園農地。日鉄興和不動産が市からニュータウン用地として取得していた遊休地(提供=日鉄興和不動産農業)
北海道室蘭市の開園農地。日鉄興和不動産が
市からニュータウン用地として取得していた遊休地
(提供=日鉄興和不動産農業)

将来は九州で新技術開発

 日鉄興和不動産(株)が農業事業に参入するのは、同社のさまざまなアセットを活用できる可能性を持つ新規事業と判断してのもの。三輪正浩社長は「今後10年、20年を考えたとき、既存事業だけでは成長が望めない。農業を含めた新規事業に打って出て成長の機会をしっかりとっていきたい。利益を生んで、継続的に運営していくことで、微力ながら地域経済を支えていく」と話した。同社が目指す「アグリデベロッパー」は、不動産開発のノウハウを農地に転用し、生産者の立場で農業に関与するとともに、農地の価値を最大化する。

 事業展開は、まずは北海道室蘭市でリンゴの栽培を開始。単一品目、単一エリアへの集中リスクを回避するため、2029年以降、北海道登別エリアにおいてサツマイモなどを栽培し、加工用機械による省力化などを手がけることを検討している。さらに農業分野における新技術開発のために、展開エリアを全国に拡大。とくに、九州エリアにおいては北九州市や大分市、宮崎市などでスマート農業やAIの活用、気候リスクの分散などを視野に展開を検討する。インフラ整備やブランド化、アグリツーリズムといった観光、地域雇用の創出など、生産にとどまらず地域の魅力を最大化するコンテンツを創造し、農業と不動産開発による「6次産業化」を推進する。

青森で行われている高密植栽培によるリンゴ(提供=日本農業)
青森で行われている高密植栽培によるリンゴ
(提供=日本農業)

    同社は、室蘭市のほか、北九州市や大分市など日本製鉄の製鉄所エリアにおいて、製鉄所の遊休地を中心に住宅開発や⼤型商業施設の展開など、一貫して「製鉄所と共にある街づくり」を手がけてきた。今回の取り組みにおいても、室蘭市を「鉄と農業の街」として発展させていきたいという。

宮崎の新興企業きっかけ

 同社が農業分野に進出するきっかけとなったのは、24年に行ったスマート農業スタートアップ企業であるAGRIST(株)(宮崎県新富町、秦裕貴代表取締役)への出資と業務資本提携。AGRISTは、自動収穫ロボットの開発や自動収穫ロボットに最適化された施設園芸ハウス、AIを活用した収量予測と市況予測による最適な栽培などを行っている。三輪社長は「出資を通じてAGRISTがもつネットワーク、農業への知見を深めていった。1年半を通じて投資だけではなく、事業として(農業を)やっていこうという決断をした」と語った。

 農業事業を始めるにあたり、持続可能な農林⽔産業を目指す「ONE SUMMIT」に日鉄興和不動産も参加。そこで(株)日本農業の内藤祥平CEOと知り合い、「高密植栽培」という手法を認知した。手始めに保存性が良く、単価が高く、東南アジア中心に人気も高いリンゴに着目。日鉄興和不動産は室蘭市で従来から事業を展開しており、行政との信頼関係を構築できていたため、農業進出への支援を得ることができた。また、気候条件や⼟地特性を日本農業と精査した結果、近年の温暖化による生産地の北上傾向を踏まえ、室蘭市はリンゴ栽培の新たな適地となり得ることを確認した。

写真左から日鉄興和不動産・三輪正浩社長、日本農業・内藤祥平CEO、日鉄興和不動産農業・山下恒取締役
写真左から
日鉄興和不動産・三輪正浩社長、日本農業・内藤祥平CEO、
日鉄興和不動産農業・山下恒取締役

10年で100haに

 12月12日に設立した日鉄興和不動産農業(株)は、資本金1億円で日鉄興和不動産が95%、日本農業が5%を出資。日本農業は16年に創業し、農産物の生産から販売・輸出まで展開していることから、このノウハウを生かして農業事業を進めていく。

 室蘭市の第1弾プロジェクトでは、26年4月に0.7haを先行開園。従来の方法よりも3倍の収穫量と2年目から収穫が開始可能な「高密植栽培」を採用し、27年4月には開発規模を約4.9haに拡大する。今後10年間で100ha規模の⼤規模な生産体制とし、売上高10億円規模、営業利益2億円規模を目指すという。

 また、同社が農業を展開するにあたり、農地の整備し、農産物を収穫するだけなく、生産から販売までを一気通貫でデザインする。流通インフラの整備やブランド化、農地周辺に宿泊施設を備えた観光農園化なども視野に入れて展開していく予定としている。日鉄興和不動産農業の鈴木誠治社長は、当初は日鉄興和不動産が運営する商業施設やスーパーなどを中心に道内で販売し、全国や海外に販路を広げていく考えを示した。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事