事業者が労働者を解雇したものの、その後、労働者が解雇の効力を争って解雇無効となった場合に、事業者が金銭を支払うことで労働契約を終了する「解雇の金銭解決」について、厚生労働省が2026年に専門家による検討会を立ち上げることが報道されました。22年にも検討されましたが、このときは実現には至りませんでした。制度が創設されるか、またその内容はどのようなものかなどは、今後の検討内容を見守るしかありませんが、解雇の金銭解決の現状についてご紹介します。
労働者が解雇無効を訴え、当事者間の協議で解決しない場合、紛争解決手段として、①都道府県労働局のあっせん、②労働審判手続、③民事訴訟、があります。②と③は、裁判所で行われる手続きであり、②は裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名で構成される労働審判委員会が審理し、原則として3回以内の期日で迅速な解決を目指す手続きです。調停(話し合い)が不成立で、さらに労働審判委員会の判断に異議申立てがあれば、訴訟に移行します。③は訴訟手続による法的解決を図るもので、和解または判決により終了することになります。
厚生労働省による「解雇に関する紛争解決制度の現状と、労働審判事件などにおける解決金額等に関する調査について」によると、①あっせん手続きは、約8割の事案が2カ月以内に終結しており、迅速な解決が見込めます。②の労働審判手続は、コロナ禍前の18年度までは約7割の事案が3カ月以内に終結し、コロナ時期を含めても66.4%の事件が申立てから3カ月以内に解決しています。事案発生日(解雇日)からの解決期間の中央値も6.6カ月と、比較的短期で解決しています。③の労働関係の民事訴訟は、手続きとしては約50%が1年以内に解決していますが、事案発生日(解雇日)からの解決期間の中央値は18.3カ月と、長期化の傾向があります。事業者にとっても、1年半もの期間労働紛争を抱えることは大きな負担になるものと思われます。
解雇紛争が裁判所へ持ち込まれた場合、圧倒的大部分が金銭解決によって終局し、雇用が存続しないかたちでの解決が主流です。前述の厚労省による20年および21年終局事案の調査結果では、労働審判手続および裁判上の和解のいずれにおいても、96%以上が雇用存続をともなわない金銭解決となっています。労働者は紛争時に「地位確認」(解雇無効)を求めている場合がほとんどであるにもかかわらず、そのほとんどが金銭解決となっているということになります。この金銭解決のために、事業者が労働者に支払う金額は、②の労働審判では平均値で約285万円(月収6カ月分)、中央値で150万円(月収4.7カ月分)、③の訴訟では平均値で約613万円(月収11.3カ月分)、中央値で300万円(月収7.3カ月分)となっています。最終的に金銭解決により労働関係を解消できたとしても、事業者側にも相当な負担となることは間違いありません。
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解雇は「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」でなければ、有効とは認められません。しっかりと解雇理由を裏付ける証拠を準備して、手続きを踏んで解雇しないと、解雇無効として争われるリスクがあり、紛争になった場合には、前述のような時間的、金銭的コストが発生します。解雇が必要と判断した場合でも、まずは弁護士に相談して慎重に手続きを進めることをお勧めします。
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<プロフィール>
岡本成史(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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