2016年最大の課題、隣国・中国は環境問題を解決できるのか(1)
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参議院議員 浜田 和幸 氏
賛否両論のTPPに関心を持つ中国
2015年の10月から年末にかけて、中国、香港、ベトナム、オーストラリアを訪ねた。主たる狙いは「大筋合意が得られた」とされるTPP(環太平洋経済連携協定)の影響と未解決の課題を探ることであった。16年1月からの通常国会ではTPPの批准に向けて、与野党の議論が伯仲するに違いない。
とはいえ、合意の詳細は「協定成立後4年間、明らかにされない決まり」となっている。というわけで、隔靴掻痒の国会審議になるだろう。日本の経済、社会にとっても影響が大きい多国間の貿易自由化協定である。このまま、細部が不明のまま国会の承認を得ようとするのは、いかにも国民を蔑ろにする行為と言えよう。
協定参加国の「国のあり方」を根底から変える要素を秘めたTPP。本家本元のアメリカですら、次期大統領の最有力候補ヒラリー・クリントン元国務長官が「今の中身では同意できない」と公言しているTPP。いくら何でも、目隠しされたままで車を運転するような危険を冒すわけにはいかないだろう。食糧の安全保障にも直結する協定である。後悔しないようにするためには、交渉過程で秘密扱いされた内実を明らかにしたうえで国民の賛否を問うことが必要ではなかろうか。
我が国政府はTPPを軟着陸させるために16年度本予算に3,403億円を計上している。いわゆる「攻めの農業」を支援するためである。地方創生への支援予算を加えれば約5,000億円になる。逆に言えば、それほど日本の農林水産業が危機的状況に追い込まれる可能性を踏まえているわけだ。各国ともTPPについては、いまだ賛否両論が渦巻いているのが現状である。
実は、中国もTPPには並々ならぬ関心を寄せていることが、今回の訪問でも確認できた。日本にとってもアメリカにとっても貿易、通商上はもちろん安全保障上でも、無視できない存在となっている中国である。経済成長に鈍化傾向が見られるとはいえ、年率7%近い勢いを保っている中国。しかし、国内経済を回していくためにも、環太平洋の国々との関係強化は欠かせない条件であろう。
自前のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)を発足させ、資金面でアジア太平洋諸国を囲い込もうと躍起になっている中国だが、TPP参加国への働きかけにも工夫を凝らしているようだ。中国の強みは世界最大の製造工場であると同時に最大の消費マーケットを擁していることだ。アメリカ政府も中国をTPPに取り込むタイミングや条件を探っているに違いない。
そうしたなか、世界第2と第3の経済力を誇る中国と日本がどのような共存共栄の道を歩むことができるのか。それこそが『2016年の最大の課題』と言えよう。翻って、ここ数年、日中関係は「戦後最悪」と言われるほど、悪化の一途をたどってきた。これは尖閣諸島や靖国参拝をめぐる政治問題や中国による南シナ海での岩礁の埋め立てという軍事、資源確保の面での対立が主たる原因である。残念ながら、両国の政治指導者が胸襟を開いて真摯に向き合う機会がないまま今日に至っている。
このように政治関係は冷めていても、“爆買い”観光客に象徴されるように中国人一般の日本への関心と日本製品への情熱は熱いままだ。経済や環境という切り口こそ、政治的膠着という重しを取り除くきっかけになると思われる。
また、そうしなければ、日中双方にとっても周辺国にとっても不利益が積み重なる一方であろう。まさに創造的な外交努力が求められる時だ。幸い、15年には関係改善の糸口となるような政治的歩みよりが双方に見られるようになった。ぎこちなさはあったものの、両国の首脳会談にもこぎつけた。この流れを加速させる必要がある。
その意味で、両国が信頼と協力の絆を取り戻すための第一歩として、環境問題に目を向けることから始めてはどうだろうか。というのも中国は、30年以上にわたる急速な開放・改革政策を追求した結果、世界が注目する富を蓄積したのだが、その反面、深刻な環境問題に直面する事態に到っているからだ。地球温暖化が今のペースで続けば人類の生存も危機に直面するだろう。その最大の元凶となっているのが中国に他ならない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。関連キーワード
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