今後の外国人政策について 法的・経済的前提と地方の現状から考える

ノーザンモースト行政書士事務所
所長・行政書士 浅川晃広 氏

ノーザンモースト行政書士事務所 所長・行政書士 浅川晃広 氏    2025年の参議院議員選挙において、にわかに移民や外国人が争点の1つとなった。ただ、とくに「移民政策」をめぐっては、過去の首相が「移民政策はとらない」という趣旨の発言をしていたものの、そもそも「移民」とは何なのかという定義が曖昧であり、それゆえそれぞれの論者がそれぞれの定義に基づいて議論をしていたために、整合性を欠き、有益な議論がさほどなされなかったように思える。ここでは今後の外国人政策の方向性について、論点整理を行ったうえで、今後の我が国の労働供給制約の観点から、筆者の居住する北海道北部地域の現状を紹介することで論じたい。

「外国人」と「移民」をめぐる
論点整理

 まず「外国人」とはどういう存在なのか。外国人政策の基本法たる「出入国管及び難民認定法(以下「入管法」)」において、外国人は「日本の国籍を有しない者」と明確に定義されている(第2条)。

 そして、「外国人の入国在留は入管法で規制されており、外国人は入管法上の許可なくして在留することはできず、その許可なき外国人を排除する制度と体制が整備されている」という大前提を指摘しておきたい。すなわち入管法上の入国在留基準の設定によって、外国人の在留の在り方は直接間接の影響を受けるのである。

 では「移民」はどうか。「外国人」と違って我が国の法体系に「移民」という用語は存在せず、あくまでも辞書的な意味において用いられているにすぎない。

 そこで筆者なりに論点整理をしておきたい。図は筆者が作成した在留外国人の構図である。

 入管法の観点からすると①訪日外国人(いわゆる「インバウンド」や親族訪問者などで最大90日以内の在留)、②在留外国人(留学生や技能実習生など、生活・就労ベースの在留で、在留期間は年単位におよぶ場合もある)、③永住外国人(在留外国人が永住許可を申請し、永住許可を得た外国人。例外的な場合を除き「死ぬまで」在留できる)、④在留外国人や永住外国人が帰化によって日本国籍を取得し、統計上日本人になった者(ゆえに入管法による在留管理の対象ではなくなる)、⑤不法滞在外国人(図にはないが、①~③のいずれにも該当せず、在留資格無しで在留している外国人で「強制送還」の対象である)。

【図】在日外国人の構図

 この分類を前提とした場合、「移民」とは何を意味するのか。通常①を移民とは考えにくい。②~④は当然に海外から入国したものであり、国境を超えた移動をともなうという意味で「移民」といえるのかもしれない。ただ国境を超えた移動という点に着目すれば⑤も居住ベースでは物理的に在留しており、これも含まれるのだろうか。

 なお、アメリカ移民法では「移民ビザ(immigrant visa)」と「非移民ビザ(non-immigrant visa)」が区別されており、前者がいわゆる永住権(グリーンカード)であり、後者が我が国の②のような特定の目的をもって期限付きで在留している外国人(留学生等)となる。豪州移民法でもほぼ同様に「永住ビザ(permanent visa)」と「一時的ビザ(temporary visa)」で大別されている。こうした伝統的な移民国家の法体系では、永住許可を得た外国人を移民と位置付ける場合もある。

 はたして④についてはどうか。我が国の「日本人/外国人」の線引きから見ると、④はすでに日本人であり「移民」とはいえないかもしれない。豪州では、移住した外国人には永住許可のまま留まる者と国籍を取得する者の両者がおり、「国民/外国人」という線引きではなく「豪州生まれ/海外生まれ」という線引きが国勢調査等の各種統計においてなされている。この場合は国境移動の有無をベースとしているので、④についても「移民」といえるだろう。

 このように一口に「移民」といっても、①の短期滞在者(インバウンド等)を除けば、着眼点によって含まれる類型もあれば含まれない類型もある。「移民」を論じる際に、まずもってどの類型までを含んだ主張をしようとしているのかを明確にしない限り、到底有益な議論とはならず、感情論が先行してしまう懸念がある。

構造的前提としての「労働供給制約」

 次に経済的な前提である。戦後直後から1980年代までの我が国の外国人政策の基本方針は「外国人の永住定着防止」であった。主には高度成長期における人口増加による住居不足や都市の過密・公害問題の発生など、人口増加による弊害が見られたため、外国人の流入がもたらす悪影響を抑制しようとする、当時としては合理的な政策であった。

 「鎖国」したわけではない。日本人労働者の代替とはならない、外国人ならではの特殊な技能をもった者、わかりやすい例でいえばネイティブの外国人語学講師などについては在留を認める体系であった。すなわち、日本人の労働者数が増加しているなか、外国人によってそれが「代替」され、日本人の雇用が奪われることを回避しようとしたといえる。

 こうした前提に変化が生じたのが90年代以降で、日系人が事実上の労働者として流入したことに見られるように、日本人労働者の不足によって外国人による「補完」の要素が出てきたといえる。ただあくまでも「日本人の代替を抑制する外国人政策」という名目上、「日系人」「技能実習生」「留学生」という位置づけが堅持されたことも事実であった。

 そうした状況が30年ほど継続してきたが、とくに団塊の世代が後期高齢者に突入し労働市場からほぼ撤退し、さらに近年において人手不足が明確になったことで、「日本人労働者の補完としての外国人労働者の存在」が、多くの国民に認識されるようになってきたのではなかろうか。コンビニ店員の多くが外国人というのは日常的な光景であるし、技能実習生と職場を共にする日本人、留学生と学習の場を共にする日本人も多かろう。

 こうした傾向は今後の我が国の中長期的な構造的前提としての「労働供給制約社会」の反映といえる。これは総人口の減少よりも、労働力人口の減少のスピードがはるかに速く、相対的に労働者の数が圧倒的に不足する経済状況が長期間継続するものだ。とくに高齢者の増加は医療需要・介護需要を増大させるため、この状況に拍車をかけており、2040年には1,100万人の労働者が不足すると推計されている(冨山和彦『ホワイトカラー消滅』NHK出版、2024年)。

 こうした状況において、日本人労働者が不足する業種に外国人を導入することは、日本人労働者の代替どころかむしろ補完となり、労働供給制約の解消につながる前向きな政策となり得る。事実、19年から導入された在留資格「特定技能」は明示的に労働力不足の業界にターゲットを設定して外国人を労働力として導入するものであり、24年末時点で約33万6,000人が在留している。

 このことはかつての「高度人材の積極導入」とは一線を画するものである。すなわち、高学歴者や顕著な業績をもつ研究者の多くが、そもそも日本を目指すとも思えず、仮にそれが少数いたとしても、労働供給制約社会の解決に資するものとはならない。

 よって、外国人が「高度」かどうかよりも人材の「供給不足」に軸足を置くべきであり、仮に「供給不足」の業種がかつての「高度人材」とは言えないとしても、労働市場上の要請は明らかに「供給不足」業種の人材にあることは明らかである。

北海道北部の事例

 これらを踏まえたうえで、筆者の居住する北海道北部の宗谷地方(稚内市を中心とする道北地域)における外国人受け入れの現状について紹介しておきたい。

 北海道における24年末時点の在留外国人数は約6万7,000人であり、そのうち技能実習生が約1万7,000人、特定技能が約1万2,000人となっており、現業に従事する外国人が主力となっている。彼らは北海道の主力産業である農業と漁業の担い手として欠くことのできない戦力となっている。

 24年末の宗谷地方における在留外国人数は1,513人で、このうち技能実習生が809人、特定技能が425人と両者で大半を占めている。海に面した宗谷地方では漁業が盛んで、多数の水産加工工場が存在しており、技能実習生はそうした加工工場の戦力となっている。

 宗谷地方の人口は減少傾向が続いているが、加工工場の労働力需要は、そもそも製品を域外に出荷するため地元の人口に比例するはずもなく、このことがまさに労働供給制約に拍車をかけている。加えて高齢化も進展しているため介護需要も増大しており、ここでも外国人が戦力となっている。

 このため、地元では「外国人がいなければ加工場、介護施設は回らない」ことが常識となっており、また、都市部と違って人口規模が小さく、外国人が一定地区に集住することがないことから、地元民との軋轢などについては基本的には存在していない。

 こうした現状について、地元紙『日刊宗谷』の各記事を紹介するかたちで示したい。

1.技能実習生・特定技能

  • ベトナム人技能実習生 日本語学習に熱 水産加工場で受け入れ(24年3月9日)
  • 即戦力 外国人2人が活躍 稚内緑風苑 人手不足に対応 利用者とも仲良く(24年4月24日)
  • インドネシア出身ワワさん 稚内市社会福祉事業団 技能実習生を受入 介護の即戦力に(24年5月21日)
  • 新戦力3人加わる 稚内市社会福祉事業団 インドネシアから(24年6月22日)
  • 初の特定技能外国人着任 介護の仕事担う インドネシアから姉妹(24年10月30日)
  • 稚内市社会福祉事業団 希望の家を増設 インドネシア人技能実習生大喜び(25年1月10日)

2.国際交流員、地域おこし協力隊など

  • 猿払村役場 ベトナム出身国際交流員が着任 女性2人大活躍 村内外国人技能実習生 生活相談等に対応(21年11月14日)
  • 土木施工管理技士2級 ベトナム出身フイさん合格 将来は現場代理人に(23年4月6日)
  • 底びき船に外国人 年内には全体で8人に 稚内機船漁協(23年8月15日)
  • 浜頓別町の女性国際交流員 タイから2人目が着任 故郷との架け橋に(23年8月31日)
  • 礼文町初の外国人地域おこし協力隊員 台湾の男性2人が勤務 魅力発信に励む(24年6月29日)
  • 外国人の生活支援 ベトナム出身フオンさん 稚内市初のCIRに(24年8月14日)

3.地域住民との交流など

  • 枝幸で旧正月交流会 国籍超え親睦深める 60人が笑顔に(24年2月14日)
  • 浜頓別町 22日異文化交流 外国人と町民 おしゃべり会(24年2月17日)
  • 外国人を支える 日本語学習支援者養成講座 参加者を募集中(24年7月24日)
  • 浜頓別町 技能実習生を招き BBQで親睦深める(25年7月16日)

 このように業界、行政、市民をあげて技能実習生等の外国人を労働供給制約のなかでの基幹産業における貴重な戦力として歓迎していることが示されている。このことは、①労働供給制約の解消、②それゆえ外国人が日本人を補完し、代替しない、③集住等の文化的摩擦が存在しない、などの諸条件が満たされれば、外国人と日本人の「共生」が、経済的にも社会的にも十分に可能であることが示されているのでないか。

 このことからすると、技能実習生の転職制限があたかも人権侵害であるかのように位置づけられているものの、地方における労働供給制約の解消に資する面もある。仮に転職制限自体は撤廃したとしても、地方部における労働力確保の観点から、就労地域を特定地域内(それこそ北海道内のような)に制限し、都市への流入回避と地方における人材確保、技能実習生の待遇改善を共存させる方策もあり得るのではないか。

おわりに

 我が国における外国人受け入れの法的および経済的前提を論じ、そのうえで、北部北海道地区の現状について論じた。

 今後求められるのは、規制であれ推進であれ、我が国の経済的前提に立脚し、現行の法的枠組みを踏まえたうえでの具体的な選別基準の設定と運用を確立していくことであろう。またそのためには少なくとも現状把握が必要となる。とくに労働供給制約が深刻な地方部における現状を十分に踏まえなければならない。

 さらに付言すれば、「規制」と「推進」を二項対立で位置付けることは生産的ではない。たとえば、「特定技能」の業種を拡大させるという「推進」は行うも、永住許可については要件を強化し、一定の日本語能力、収入や職業経験等の高い基準設定をするという「規制」もあり得る。また豪州で行われている非永住外国人への社会保障の規制(国民皆保険の不適用等)もあり得るだろう。

 こうした具体的な政策論こそが、外国人問題の政治への悪質なポピュリスト的利用とそれへの安易なカウンターを排し、我が国の中長期的国益に資するものとなると、筆者は確信する。


<PROFILE>
浅川晃広
(あさかわ・あきひろ)
ノーザンモースト行政書士事務所所長・行政書士。1974年神戸市生まれ。神戸市外国語大学卒業。オーストラリア国立大学留学を経て、大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。2002〜04年、在オーストラリア日本国大使館専門調査員。05〜20年、名古屋大学大学院国際開発研究科講師。名古屋大学退職後、北海道稚内市に移住し起業。著書に『知っておきたい入管法』『オーストラリア移民法解説』『日本最北移住起業論』(共著)など。

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