武雄アジア大学の補助金19.5億円、議決の経緯(2)「16億円」は「体力がある」か?
「16億円」は本当に「体力がある」といえるか
次に、小松市長が武雄アジア大学のリスク担保の根拠として議決前に挙げたもう1つ、「16億円」について確認する。再度、市長の発言を取り上げると、小松市長は次のように答弁した。
「体力があるかというところも大変大事であります。旭学園の令和5年度の事業実績、決算関係書類については市で確認をしておりまして、例えば特定資産や現金預金で16億円が確かに確保されている」と答弁している。つまりこの説明は、この「16億円」の確保をもって、旭学園は財務的な「体力がある」と言っているのである。
旭学園の2024年3月期末時点(赤枠は議決時に確認できた財務諸表、以下同)の貸借対照表をみると、現預金は7億7,717万円、特定資産は7億7,438万円で、両者を合計すると15.5億円となる。
だが、この数字は、本当に「体力がある」といえるだろうか。冒頭に示した通り、総事業費36億1,436万円のうち、旭学園負担は16億6,627万円だ。つまり、「16億円」は、大学立ち上げに必要な旭学園の負担額そのものであって、それ以上の余剰資金は持ち合わせていないということだ。その上で小松市長の「体力がある」という主張を理解しようと努めれば、この総事業費には開学初年の26年度から29年度までの経常経費も含まれているため、市長答弁は、少なくともその期間の大学運営は何とか支えうるだけの資金がある、という趣旨だと理解する余地はある。
だが、他の財務諸表を合わせて見ると、そのような理解も楽観的に過ぎることが分かる。事業活動収支計算書は、一般企業の損益計算書に近いものだが、旭学園が本業でどれだけ収益力があるかを見ることができる。
ご覧の通り、教育活動収支差額と経常収支差額は長年にわたって赤字で推移している。本業の教育活動でも経常ベースでも、まるで利益を上げることができていない。基本金組入前当年度収支差額も多くの年度で赤字で推移しているが、25年3月期が黒字化しているのは資産を売却したためであり、資産を切り売りせねば黒字化できない状態だ。つまり旭学園は収益構造として、事業から資金余力を生み出せる状態にはない。さらにいえば、経常補助金比率は21年3月期以降45%を超えており、25年3月期は48%に達している。補助金が減らされればたちまち経営の安定性が失われかねないレベルだ。
このような状態における24年3月期末時点の「特定資産や現金預金で16億円」とは、大学新設事業のためだけに使える資金ではなく、既存事業の維持にも費やされる資金を含んでいるということだ。旭学園は大学新設の自己負担分16.7億円を確保できるかどうかというギリギリの財務状況なのだ。小松市長が「16億円が確保されている」ことをもって「体力がある」と主張するのは、旭学園の赤字体質を考慮しない見方と言わざるを得ない。
ちなみにこれらの財務諸表は、すべて旭学園のホームページ上で公開されており、誰でも見ることができる。このような説明が、莫大な補助金事業のリスク担保の根拠として示されたことに驚きを禁じ得ない。
旭学園の情報公開ページ
賛成議員の論拠も市の説明をなぞるもの
こうして見ると、議決の時点で小松市長が示したリスク担保として挙げた2つの根拠、旭学園からの伝聞による「学生確保見込み」も、「特定資産や現金預金で16億円」も、根拠としてまったく心もとない。
しかし、採決の結果、補助金の予算案は賛成多数で可決された。では、賛成した議員たちはどのような論拠でこの補助金案を支持したのか。
(賛成した議員は多数いたが、賛成討論を行った議員は3名に限られたため、以下は匿名で表記している。)
A議員は、これまで大学設置特別委員会が6回開催されてきたことを踏まえて、「旭学園側は、10月の申請に向けて大量の書類を準備される必要があるので、支援を行う武雄市としては、今回、債務負担行為を予算に計上することは、本議案の提案時期としては妥当である」と賛同を示した。そして、500人超の学生や教職員が武雄市に新たに入ることは、市の経済活動や地域交流にとって大きな意味をもつとして、大学設置を「希望ある新しい動きのスタート」と位置づけた。
B議員は、A議員の意見に同意しつつ、アンケートによる学生確保見込みや財務状況について市側の説明を受けたことをもって、それに賛同した。
C議員は、武雄市への大学設置を千載一遇のチャンスとしたうえで、先だって補助金に反対する議員が「補助金交付要綱の内容が明確になっていない、そういった状態で本予算を承認することはできない」と述べたのに対して、議決後すぐに補助金交付要綱の作成に取りかかり、契約前には議会や特別委員会に提示して議論したうえで契約に進めばよいとして、まず予算の裏付けを与えるべきという実務的な論拠に立って賛成した。
これらの賛成意見にみえることは、リスク面について、いずれも市の説明を受け入れるばかりで議員自らの検証姿勢は見えないということだ。市長が説明する「タイムリミット」論に議員もとらわれており、日程を優先するためにリスク評価を後回しする判断構造に陥っていたと見ることができる。
では、こうした賛成論に対して反対議員は何を問題視したのか。次回は、その論拠を見ていく。
(つづく)
【寺村朋輝】










