金正恩総書記にとって「幼少期の遊び相手」だった寿司職人の藤本健二氏は、今、どこで、どうしているのか?

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、6月12日付の記事を紹介する。

   北朝鮮の金正恩氏が特別に遇してきた日本人といえば、父親の金正日氏のお抱え寿司職人で、幼い頃から遊び友達同然だった藤本健二氏です。

 藤本氏は2001年に一度「脱北(日本へ帰国)」したため、普通であれば暗殺対象となるところでしたが、金正恩氏は最高指導者に就任した後の2012年に彼を平壌へ招待し、涙の再会を果たしました。しかも、金正恩氏の全面的なバックアップにより、2017年に平壌の楽園百貨店ビルに日本料理・すし店「たかはし」を開業したのです。

 一番高いコースは150ドル以上する超高級店で、主に平壌在住の外国人外交官や中国のビジネスマン、 党の富裕層向けに営業していました。一般の北朝鮮の市民には、とても手の出ない場所です。日本政府が経済制裁を行う中、金正恩氏の特権によって「日本製の食材や調味料」を裏ルートで仕入れることが許されるなど、例外的な特別待遇を受けていたものです。

 しかし、2020年頃からのコロナ禍による北朝鮮の徹底的な国境封鎖以降、藤本氏の動向は表に出なくなりました。今年で79歳になる高齢であることもあり、韓国の北朝鮮専門家の間では「既に病死した」、あるいは「何らかの事件や情報漏洩の疑いで拘束された」との憶測が飛び交う有様です。実は、金正恩氏は現在も「寿司や刺身などの日本食」を頻繁に、かつ極めて贅沢な形で好んで食べていると見られています。

 藤本氏の著書や情報機関の分析によると、金正恩氏は幼少期から藤本氏が握るトロやウニ、さらには赤身のローストやエビ・サザエの刺身を食べて育ったとのこと。彼にとって日本食は「敵対国の料理」ではなく、「子供の頃から親しんできた最高のご馳走」という認識です。

 2012年に藤本氏が再訪朝した際、金正恩氏は夫人の李雪主氏を伴い大歓迎会を開きましたが、その際、藤本氏が日本から持ち込んだ「マグロ」をその場で調理させ、上機嫌で平らげたことが確認されています。

 正恩氏にとって藤本健二という存在は、「冷酷な独裁者になる前の、孤独だった子供時代を共有できる唯一の民間人の友人」であり、それゆえに例外的な厚遇を与え、平壌での寿司店経営を許したわけです。

 藤本氏自身の現在の安否は不明ですが、彼が植え付けた「日本の寿司・刺身の味」は、今もなお金正恩氏の贅沢な食生活の好物として、彼の肉体(肥満や健康状態)に強い影響を与え続けています。

 藤本氏は1989年に金正日総書記の意向により、20歳年下のワンジェサン軽音楽団の有名歌手・厳正女さんと結婚し、息子と娘をもうけました。しかし2001年、藤本氏が「食材の買い出し」を口実にそのまま日本へ脱北(帰国)したため、残された家族は連座制に問われることになったのです。

 家族は平壌を追われ、約6年間にわたり地方の炭鉱へ強制送致され、強制労働を強いられる過酷な生活を余儀なくされたそうです。風向きが変わったのは、幼少期に藤本氏を兄のように慕っていた金正恩氏が最高指導者に就任してからです。金正恩氏は「藤本が逃げたのは父親(金正日)の監視が厳しかったからで、家族に罪はない」とし、家族を炭鉱から平壌へ呼び戻しました。

 藤本氏が2012年に再び訪朝する直前、それまで部屋が2つしかなかった古いアパートから、金正恩氏の個人的な贈り物として、平壌市内の一等地にある「5部屋付の高級タワーマンション」へと移住させられたといいます。家具や家電もすべて金正恩氏が買い与えたものであり、一般国民とはかけ離れた贅沢な暮らしが保証されたというわけです。 2012年や2016年の藤本氏の訪朝時、そして2017年のすし店「たかはし」の開業時には、夫である藤本氏を現地で支える厳さんの姿が目撃されています。

 金正恩氏が藤本氏の家族を処刑せず、むしろ高級マンションを与えて厚遇した最大の理由は、家族を平壌で豊かに暮らさせることで、日本にいる藤本氏を再び北朝鮮に呼び戻し、口封じ(機密漏洩の防止)と自らの専属シェフとしての復帰を果たすための強力な交渉カードにするためだったと思われます。その目論見通り、藤本氏は家族に会うために訪朝を繰り返し、最終的に平壌へ移住して、すし店を開くことになりました。

 コロナ禍以降(2020年〜2026年現在)は国境封鎖により藤本氏本人の消息とともに家族の動向も外部からは確認できなくなっています。しかし、金正恩氏の「お墨付き」の家庭であるため、政変や重大な不敬事件が起きない限りは、現在も平壌の高級マンションで配給や特権を維持しながら暮らしているのではないでしょうか。


著者:浜田和幸
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