日本の自動運転車市場と各省庁による規制の動き(前)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 高市首相は自動運転技術を「地方の過疎化対策」や「運転手不足問題」の解決にとって不可欠な切り札として認識しており、国家の最重要インフラ戦略として強力に推進しています。また、自身の経済政策である「サナエノミクス」の核として「戦略的財政出動による先端技術への投資」を掲げており、自動運転はその中核に位置づけられているわけです。

自動運転を国家戦略の中核に

自動運転イメージ    高市首相は、地方の路線バス廃止や、物流トラックの運転手不足による経済の停滞を「国家の存亡に関わる危機」と捉えています。そのため、安全規制の緩和を各関連省庁に促し、「2027年度までに無人自動運転サービスを全国100カ所以上で本格稼働させる」という政府目標の達成に向け、予算と法整備のアクセルを踏み続けているのです。

 高市政権が打ち出した成長戦略では、自動運転や人型ロボット、スマートファクトリーといった、AIと物理的なハードウェアを融合させる「フィジカルAI」の17分野に対して、官民合わせて100兆円規模の投資を行うことを閣議決定しています。サイバー空間のテキスト処理(米中が圧倒的に強い分野)ではなく、日本が強みをもつ「ものづくり」とAIを掛け合わせることで、地方のインフラ維持と産業振興を同時に達成するのが狙いです。

日本の自動車産業は復活できるか

 自動車産業の復活に結び付くかについては、「復活の可能性は大いにあるが、従来の『車両を売って稼ぐ』ビジネスモデルのままでは敗北する」というのが、専門家や産業界の共通した見方です。

 自動運転には、どれだけ優れたAIがあっても、それを正確に動かす「走る・曲がる・止まる」の高度な車両技術やセンサー、半導体素材が必要です。トヨタの「Mobility-Core」に代表される堅牢な車体製造能力は、いまだ世界トップを維持しています。

 日本は、米国との国家プロジェクト「Genesis Mission」を通じて、自動運転車の劇的な省電力化を可能にする「ダイヤモンド半導体」や「全固体電池」の素材開発をAIで高速化しています。この次世代コンポーネントの供給網を日本が握ることができれば、世界の自動運転産業の主導権を取り戻せるはずです。

 東京大学の松尾研究室発のスタートアップなどが進める「手元の小さなサーバーや車載器単体で自律的に賢くなるAI」の思想は、米中の巨大なクラウドにデータを吸い上げられない安全な自動運転インフラとして、世界から評価されるポテンシャルを秘めています。

 しかし、課題もあり、「2つの致命的な壁」と認識されています。

 1つ目は米国(ウェイモやテスラ)や中国(百度や、Kimi K3を開発したMoonshot AIなどのエコシステム)は、すでに数百万〜数千万キロの公道無人走行データをAIに学習させ、凄まじいスピードで「運転の脳」を賢くしていることです。日本(国交省や警察庁)の慎重な安全審査の間に、「脳ミソ(AIソフトウェア)」のシェアを米中に完全に握られてしまえば、日本は単なる「外資系AIを載せて走るハコ(下請の車体製造係)」に成り下がるリスクがあります。

 2つ目は高市首相がどれだけアクセルを踏んでも、国会での「外国代理人登録法」をめぐる与野党の対立や、重要インフラへのAI導入における責任の所在(PL法や刑事責任の壁)など、日本の法制度のアップデート速度が、技術の進化(Kimi K3ショック)に追いついていないのが実態です。

 いうまでもなく、高市首相が認識する通り、自動運転は日本の地方を救うために不可欠です。そして、日本が「フィジカルAIの素材・車体」と「分散型の安全なソフトウェア」という独自の軸で連合(トヨタ・NTT連合など)を組んで戦えば、次世代のモビリティ覇権国として復活するチャンスは十分にあります。

 しかし、米中のAIの進化は「待ってくれない」ため、官民の投資と規制緩和をどこまで超高速化できるかが、日本の運命の分かれ道となるはずです。

迫るテスラ、ウェイモの日本参入

 一方、海外勢の製品が日本市場で成功する可能性は極めて高いと予測されていますが、その分野は「個人向け」と「商用サービス」で分かれています。具体的には、テスラ(個人向けEV×自動運転)が先陣を切っている状態です。実は、日本国内のEV市場において、テスラをはじめとする外国車は新車登録台数の約半分を占めるほどの強さを誇っています。

 実際、テスラ・ジャパンはAI自動運転機能の26年内の日本実装を目指して公道テストを重ねている最中です。日本での解禁(最短で27年頃の見込み)が実現すれば、一般の個人が乗るプレミアム自動運転車として市場を一気に独占する可能性を秘めています。

 一方、ウェイモ(ロボタクシー)の可能性も無視できません。すでにアメリカで何百万回もの商用無人タクシー運転の実績をもつウェイモは技術的な面では日本車を圧倒しています。日本でも最大手の「日本交通」や配車アプリ「GO」と組み、都内での実証実験を開始。ただし、ウェイモは高精度3D地図に頼るシステムのため、日本の絶え間ない道路工事や複雑な狭い路地に対応するためのローカライズ費用が今後の普及の壁となります。

 とはいえ、規制の焦点は「国籍」ではなく「AIのブラックボックス問題」です。テスラなどの導入が遅れているように見えるのは、日本車への忖度ではなく、「E2E(エンド・ツー・エンド)型AIの安全性をどう証明するか」という技術的・法律上のハードルがあることが影響しています。カメラの映像からAIが直感でハンドルを切る最新の自動運転は、「なぜその瞬間にブレーキを踏んだ(あるいは踏まなかった)のか」のプロセスがブラックボックス化しがちです。

 政府は「有能で注意深い人間のドライバーと同等以上の安全性」を厳格に求めており、これの証明を求めているに過ぎません。これは日産やトヨタなど日本企業もまったく同じ条件で苦戦・対応している課題です。

 また、外資を入れなければ「日本のインフラが崩壊する」という危機感もあります。現在、日本のタクシーやバスの運転手不足は限界を迎えており、とくに地方の交通維持は待ったなしの状態です。政府は30年代に自動運転車両の販売シェア世界25%を目指す壮大なロードマップを掲げていますが、実証実験の段階から抜け出せない国産メーカー(ホンダの計画延期など)だけでは、 国内1万台の自動運転インフラを整備できそうにありません。

 政府としては、安全基準さえ満たせば、海外の優れた自動運転技術のテスラやウェイモを呼び込んで日本の交通崩壊を救ってほしいというのが本音です。そのため、日本政府は「安全基準は世界一厳しく設定するが、それをクリアできれば国籍に関係なく歓迎する」というオープンかつ厳格なスタンスを取っています。

市場規模は確実に2.5兆円超へと跳ね上がるため、海外勢の製品は、規制による差別ではなく「日本の超複雑な道路環境にどれだけ早くAIを適応させられるか」という純粋な技術競争によって、今後の市場シェアの大きさが決まる見込みです。日本市場で成功すれば、欧米のみならず、アジア市場でも飛躍的な成長が期待できます。

(つづく)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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