武雄アジア大学の補助金19.5億円、議決の経緯(4)問われる原則論と出口戦略

補助金交付をめぐる武雄市の原則論

 武雄市議会は令和6(2024)年6月定例会で、旭学園に対する補助金19.5億円を令和6年度補正予算として賛成多数で可決した(25年3月定例会で令和7年度一般会計予算として再可決)。しかし、その後も議会では、武雄アジア大学ならびに旭学園の事業継続性についてたびたび懸念の声が上がっていた。それに対する小松市長と市担当者の答弁を整理すると、おおよそ次の3点に集約される。

 旭学園による武雄アジア大学の運営が困難になった場合、
①運営に対して追加で補助金を出すことはない
②大学を公立化することはない
③旭学園が大学運営から撤退する場合は、補助金を返還してもらう

 以上が、小松市長の示してきた基本方針だ。

 だが、これらの原則論が現実の危機局面にそのまま適用できるとは限らない。

 武雄アジア大学は入学定員140名に対して、初年度の入学生は37名にとどまった。当初想定を大きく下回る出発となった以上、今後の収支や事業継続性に重大な懸念が生じていることは明らかだ。旭学園の財務力を踏まえれば、武雄市としても出口戦略の検討を始める段階にある。はたして武雄市は、これまで示してきた原則論を維持したまま、本件構想の出口を見いだせるのだろうか。

 以下で検討する。

補助金回収は現実的にも道義的にも難題

 まず、旭学園が武雄アジア大学の運営から撤退した場合、補助金回収は、財務面だけでなく、既存の教育機関への影響という観点からみても、容易ではないと考えられる。

 当記事(2)でも見たように、旭学園は24年3月期末時点で武雄アジア大学構想の自己負担額16.7億円を用意する以上の財務余力がなく、既存事業で資金を生み出す収益力もなかった。そのような旭学園に19.5億円もの補助金返還を求めれば、法人全体の経営を著しく圧迫し、結果として旭学園そのものの存続を危うくしかねない。

 このとき問題となるのは、旭学園に資金がないから回収できないということばかりではない。旭学園は既存の佐賀女子短期大学、佐賀女子高校、幼稚園などを運営している。24年5月1日時点で、短大に292名、女子高に895名、幼稚園に323名が在籍していた。旭学園の経営が危うくなることは、武雄アジア大学構想と直接関係のない既存学校の在学生らの教育環境を揺るがすことになる。

 そもそも武雄市は本件大学構想を、地域の教育振興を掲げて進めた経緯がある。その構想の行き詰まりの結果として補助金の返還を迫り、既存の教育環境まで危うくすることは本末転倒であり、道義的に大きな問題をはらむ。よって補助金返還を求めるとしても、現実に回収可能とみられる範囲は、旭学園の既存の教育体制に影響を与えない武雄アジア大学の資産範囲、具体的には補助金によって建設された大学校舎などに限定される可能性が高い。

 また、旭学園からの補助金回収が容易でないことは、補助金交付を決定した時点の財務内容からもうかがえた。そのような点からも補助金交付要綱に設けられた補助金返還条項は、リスク担保として構造的な弱さを抱えていたのであり、事後にその実効性を確保することには限界がある。

武雄市は本当に巻き込まれた側か

 だが、補助金回収の困難さ以上に、より現実的で深刻な問題がある。それは、旭学園が武雄アジア大学の運営から撤退を検討する以前に、大学の赤字が旭学園の既存の短大、高校、幼稚園などに波及しそうになった段階で、武雄市が追加支援を迫られる可能性が高いということだ。

 形式上、武雄アジア大学の設置・運営主体はあくまで旭学園であり、大学の経営責任も第一義的には旭学園にある。しかし、武雄アジア大学の総事業費36.1億円のうち、武雄市と佐賀県の負担合計19.5億円は総事業費の半分以上にあたる。武雄市の誘致と補助金の交付決定がなければ、本件構想は決して実現しなかった。また、武雄市は、本件構想を単に教育振興としてだけでなく、地域の経済振興・人口政策などの一環として位置づけて構想を推進してきた。その意味で、武雄アジア大学は形式上は私立大学であっても、実質的には武雄市の公共政策を色濃く反映した大学構想とみなされる。

 その武雄アジア大学の赤字が旭学園の既存の教育環境に影響を与えかねない場合、見方を変えれば、武雄市の政策が旭学園の既存学校を巻き込んでいるともいえる。その状況でなお、武雄市が「追加支援を行わない」という原則論だけにとどまることは、政治的にも道義的にも難しい。

 また、武雄市が本件構想を推進するにあたって期待した政策効果は、短期的なものばかりではなく、中長期的なものが主目的であったはずだ。仮に大学側が赤字は一時的なものだと説明すれば、武雄市としても中長期的な政策継続の観点から、追加の支援を求められる可能性は十分ある。

 このように武雄アジア大学の設立構想は、本来、旭学園の既存の学校経営への波及リスクまでも含めて、武雄市が構想段階で徹底的に検証することが必要だった。議会で繰り返された原則論には、構想段階でのリスク範囲の想定が不十分なまま今日に至った武雄市の姿勢が表れている。もはや構想がここまで進行した以上、武雄市は自らの直接的な財政リスクだけを切り出して今後を描ける段階にはない。

もう1つの原則「留学生2割」

 こうした状況を踏まえると、もう1つ見直しを迫られかねない原則がある。それが留学生比率だ。

 本件構想は、「地域の子どもたちの学びの機会の確保」を公的支援の中心的な根拠としてきた。また、議会においても、留学生の増加による地域社会への影響などから、大学経営が悪化した場合に留学生を過剰に増やすことへの懸念が当初から示されていた。そのため、旭学園も「当面、学生数の約20%の留学生受入れを目指す」とし、また、3月26日の市議会全員協議会で旭学園側が、入学予定者が39名(当日時点)にとどまったことを説明した際も、「留学生の割合は2割程度を変えるつもりはない」と述べるなどして、留学生比率については慎重な姿勢を見せてきた。

 しかし、武雄市が原則①~③を堅持できる立場にないとすれば、④「留学生2割」の原則も再考の対象となる可能性がある。

 旭学園の中核である佐賀女子短大は、今年度の新入生について、196名のうち4割超にあたる79名が留学生であることを発表した。同短大は近年、留学生数を拡大させている。23年度まで新入生数に占める正規留学生率は多くても20%程度で推移していたものが、24年度には40名(新入生全体142名)で28.2%、25年度は74名(同182名)で40.7%、そして今年度も4割超という水準を確保し、さらに新入生全体の数も増やして募集力を強化している。

 留学生比率は原則①~③とは性質が異なるが、短大で実際に留学生比率が上昇していることを踏まえると、財政リスクにかかわる①~③よりも先に、④の見直しが選択肢として浮上する可能性は高い。だが、ここには大きな問題がある。それは大学構想のリスク範囲がさらに社会リスクへと拡大することを意味するからだ。

出口戦略の前提となる交渉力の確保

 以上を踏まえると、武雄市が掲げてきた原則は、その現実適合性が問われる局面に入りつつある。

 しかし、原則論の是非を論じる前に、より重要なのは武雄市の交渉力の問題だ。市はこれまで本構想において、武雄市に生じうるリスクを自ら積極的に検証し、その担保のために必要な条件を旭学園に求める関係を十分に築いてきたとは言えない。最も重要な「学生確保見込み」においても終始受動的な立場にとどまってきたことは、その交渉力の弱さを示している。このままで各原則の是非が論じられることは、なし崩し的に原則論が放棄されるばかりとなり、武雄市にとっての最善の出口とはならない。

 旭学園の26年3月期の財務諸表は、例年通りであれば5月下旬ごろに公開される見込みだ。その際には、決算書に加え、武雄アジア大学の収支見通しや法人全体への影響についても、議会と市民に分かるかたちで説明される必要がある。旭学園の資料を踏まえつつ、武雄市が掲げてきた原則が現実に耐えうるのかどうかは、改めて検証されなければならない。あらゆる出口戦略を検討する前提として、その議論は広く市民の前で深められるべきだ。

(了)

【寺村朋輝】

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