【インタビュー】“ありのままの自分”を探す舞台 わらび座「真昼の星めぐり」福岡公演へ
劇団わらび座
俳優 佐々木亜美 氏
6月30日、アクロス福岡シンフォニーホールで上演される劇団わらび座の舞台「真昼の星めぐり」the Musical。データ・マックスの文化支援事業として7作目となる本作は、宮沢賢治の童話世界「イーハトーブ」を舞台に、現代の高校生が「失くしてしまった大切なもの」を探して旅する物語である。客席参加型の演出も取り入れながら、命のつながりや他者とともに生きることの意味を描き出す。福岡公演を前に、ダブル主演の1人・佐々木亜美さんに作品への思いや見どころを聞いた。
ヘラルボニーとのコラボ
「境界を超える」舞台
俳優 佐々木亜美 氏
──今回の作品「真昼の星めぐり」the Musicalは、これまでの作品とは少し違う「境界を超える」作品とのことですが、どのような作品なのでしょうか?
佐々木亜美氏(以下、佐々木) 今回は、岩手を拠点に障害のあるアーティストの作品を展開する(株)ヘラルボニーさんとタッグを組んでいます。舞台セットや衣装に、彼らのアートがふんだんに使われています。
私が演じる主人公の「あおい」と幼馴染「めぐる」の制服が、物語が進むにつれて「イーハトーブ」の世界に染まり、変化しアートが浮かび上がっていく演出となっています。また、役者が客席まで降りていく場面もあり舞台と客席の境をなくした演出もあり「文字通り境界を越えた」これまでにない作品です。
──出演者側から見て、何か感覚的に違うなと感じる部分はありますか。
佐々木 非常に違いますね。通常公演と「鑑賞マナーゆるめの回」の2種類があります。「鑑賞マナーゆるめの回」ではじっとしているのが難しいお子さんなど、驚いて声が出てしまったり、心のままに反応してしまったりすることを許容する回です。
舞台は静かに見るものという常識を超えて、客席から「悪いのはお前だ!」といったダイレクトな声が飛んでくるのは新鮮で、役者も新しい感覚をもらっています。
観客を「自分ごと」化させる演出の力
──鑑賞マナーだけでなく、バリアフリーへの配慮もなされているのですね。
佐々木 はい。駅からのバリアフリーマップを作ったり、字幕で見られるようにしたりと、障害のある方も楽しめる工夫をしています。
──観客の反応は、どう感じていますか?
佐々木 今回は「共感を超えて、自分ごとのように見て下さる方」が多いように思います。
完璧主義で自分を苦しめている「あおい」と、本音を隠して周りに合わせる「めぐる」という2人が不思議なワンダーランド「イーハトーブ」を旅する物語です。大人も子どもも「あおい」か「めぐる」に「これは自分だ」と感じる瞬間があるようです。
主人公「あおい役」を演じる
──たしかに多くの日本人はどちらかに思いあたりそうです。 最後に何かを見つけるストーリーとか?
佐々木 実は本編で明確な答えを提示するわけではありません。観客の皆さま、それぞれが自分にとって大事なものを見つけていただいていると感じています。
社会のなかでの舞台芸術と
宮沢賢治の思想
──舞台芸術が社会に対してはたし得る役割について、どうお考えですか。
佐々木 今回は宮沢賢治さんの童話が下敷きになっています。 たとえば、今秋田で深刻なクマ被害の問題も、賢治さんの『なめとこ山の熊』にある「命のやり取り」というテーマに通じます。 賢治さんの世界は一見現実離れしていますが、だからこそ観る人によってキャッチするものが違っていい、奥の深い対話ができるのだと感じます。
──わらび座も(株)ヘラルボニー、るんびにい美術館も東北地方の有名なアート集団ですが、以前から接点はあったのですか?
佐々木 私たちの拠点のあきた芸術村は岩手寄りなので、車で1〜2時間ほどの距離です。分野が違うこともあり、これまで接点が少なかったのです。しかし、わらび座の役者のなかにも、もともとヘラルボニーのファンがいて私も大好きでデザインバッグを活用しています。今回はすばらしいタッグになりました。
秋田・わらび座の強みと
入団のきっかけ
──地方拠点の劇団としての強みはどこにありますか。
佐々木 やはり「大自然の中にあること」です。 私たちはそこで生活し、土の温かさや雪解けを待つ切実な気持ちを肌で感じています。 今回の舞台で取り入れている岩手県の「鹿踊り」などの民族芸能も、そうした風土から生まれています。その地に生きているからこそ出せる強さを舞台に生かしたいです。
──佐々木さんがわらび座を選んだ理由は何だったのでしょうか。
佐々木 高校時代に『げんない』という作品を見て衝撃を受けたからです。もともとは文化・芸術の中心でもある東京で歌手を目指したかったのですが、父が私を遠くに行かせたくなくて、地元のわらび座を探してきました。恥ずかしながら地元にこのような劇団があることを知らず 見てみたら一瞬で虜になり、その日のうちに入団を決めました。父の作戦勝ちですね(笑)。
──実際に入ってみていかがでしたか。
佐々木 養成所の2年間は、自分をダメだと思い続ける厳しい日々でした。今でこそ ダンス、歌、民族芸能、楽器、さらには田植えまでやるマルチタスクな毎日ですが、その時の踏ん張りがあるから今があります。
また、この仕事の意義を強く感じています。わらび座は学校公演も数多く行わせていただきたくさんの感想をいただきます。そのなかに、それまでで自分の殻を破れずにいた高校生からの声がありました。「これまで尻込みしていた自分がいたが、自分もやりたいことをする」と一歩踏み出す決意の表明でした。私自身がそうだったように皆さんの人生のお手伝いができるんだと感じられるのです。
──熊本出身の方でわらび座の公演を見て入団した方もおられました。
佐々木 宇土市出身の先輩、白井晴菜さんですね。いったんわらび座を離れ、地元で別の仕事についていたのですが、自分のやりたいことは「やはりこれだ」と戻ってきてくれました。
俳優としての転機は
『ゴホン!といえば』
──これまでのキャリアで大きな転機となった作品はありますか。
佐々木 22年の『ゴホン!といえば』(25年3月に福岡で公演)です。 私は持病の喘息があるのですが、偶然にも喘息に苦しみながら生きる女性・さとの役でした。演出のマキノ(ノゾミ)さんから「言葉にできないけれど、心と体が何かを超える瞬間を演じてほしい」と言われました。
「さと役」を熱演
──それは相当過酷な要求だったのでは?
佐々木 ちょうど初日の直前に、主演以外のキャスト全員がコロナに感染するという事態も重なりました。 私も後遺症で満足に走れないなか、必死で舞台を駆け回るうちに、「生きるってこういうことなんだ」と体が答えに出会ったような感覚がありました。 これを経て、言葉の1つひとつ、役への向き合い方がより深くなりました。
福岡での新たな挑戦
祭シアターとダンススクール
──今月、福岡のシアターそらとうみで公演されている『祭シアターHANA』(4月11日~19日はどのようなものですか。
佐々木 東北6県の祭りをテーマにしたノンバーバル(非言語)の舞台です。 セリフはなく、踊りと動きだけで物語を紡ぎます。 最大の特徴は、観客参加型で一体感を味わえることです。太鼓、うちわ、提灯の3種類のシートがあり客席1人ひとりの座席に用意されています。お客さまも一緒に叩いて、かざして、踊る、熱いステージになっています。
──4月から福岡で開講するダンススクールについても教えてください。
佐々木 アビスパ福岡さんの施設を借りて、小学生を対象に開講します。1~3年生向けキッズと4~6年生向けシアター2種類で構成し、 単に1つのジャンルを極めるのではなく、ジャズ、バレエ、ヒップホップ、民族芸能など多様なダンスに触れ、自分の「好き」を発見すること、そして心と体を解放することを目的としています。
「ありのままの自分」を問いかける
──今回、主演として意識していることはありますか。
佐々木 作品の軸としての責任感はもちろん、わらび座が届けたい思いを代表して言葉にしているという感覚を忘れないようにしています。
──「真昼の星めぐり」the Musicalという作品を通じて一番伝えたいメッセージは何でしょうか。
佐々木 「ありのままの自分って何だろう?」という問いかけです。 「ありのままでいいよ」という単純な肯定ではなく、「自分らしさって何だろう」と悩み、わからないことを面白がる。そんな旅を一緒に楽しんでほしいです。
──最後に福岡の皆さんにメッセージをお願いします。
佐々木 福岡の皆さまには、コロナ禍の苦しい時期も含めて、本当にたくさんのご支援をいただいてきました。これまで6回にわたって支えてくださった企業の皆さまには、「人の思い」や「心」、そして「人生」そのものを受け止めようとしてくださっているような温かさを感じています。土地も人も温かい福岡で公演できることを、とてもうれしく思っています。
「真昼の星めぐり」the Musicalでは、光るボールを抱きしめながらご覧いただける演出もあります。ぜひ皆さまにも、イーハトーブの住人や登場人物の1人になったつもりで、心を抱きしめるような旅を一緒に楽しんでいただけたらうれしいです。
舞台が皆さまにとって「生活必需品」と思っていただけるような存在になれたらと思っています。明日を頑張るための活力を、劇場でお渡しできれば幸いです。
【鹿島譲二】
<プロフィール>
佐々木亜美(ささき・あみ)
秋田県由利本荘市出身。2017年にわらび座へ入団した。自身の出身校と出身部をモチーフにした舞台「青春(アオハル)するべ~由利高校民謡部ストーリー~」で主演を務めた。また、「ゴホン!といえば」では“まち娘・さと”役として福岡公演にも出演。「真昼の星めぐり」the Musicalでは、ダブル主演の1人として女子高生・冴島あおい役を演じる。
わらび座
1951年設立。秋田県仙北市の「あきた芸術村」を拠点とする日本有数の芸術集団。日本の伝統文化や地域文化を題材にした舞台作品を数多く制作してきた。常設劇場での公演など年間600公演を行う。クラフトビールや温泉施設の運営も手がける。2026年4月下旬に福岡市にてダンススクールを開校する。
「真昼の星めぐり」the Musical
〜不思議の国・イーハトーブへいらっしゃい〜
[福岡公演]
〔日程〕
2026年6月30日(火)
〔時間〕
開場:午後5時
開演:午後6時
〔会場〕
アクロス福岡シンフォニーホール
(福岡市中央区天神1-1-1)
祭シアターHANA
[福岡特別公演]
全席参加型エンターテイメント
東北6大まつりをモチーフとしたオリジナルステージ
〔日程〕
2026年4月11日(土)~4月19日(日)
全10回公演 ※休演日あり
〔会場〕
シアターそらとうみ
(福岡市東区香椎照葉6-6-6)








