日本外交崩壊の根本原因

政治経済学者 植草一秀

 高市首相の訪米。そして、習近平国家主席の訪米。トランプ大統領は両者に対していかなる対応を示したか。接遇の格差は歴然としていた。

 高市首相がニューヨークに到着した際、米国の出迎えはなかった。 高市首相は航空機のデッキから手を振ったが歓迎する者は存在しなかった。

 タラップからむき出しのコンクリートに降り立った。 

 米日首脳会談で媚を売るまなざしをトランプ大統領に投げかけたがトランプ大統領は顔をそむけた。高市首相はトランプ大統領を「ドナルド」と呼んだが、トランプ大統領は「日本の首相」と呼ぶだけだった。高市首相の固有名詞を覚えていない可能性が高い。

 米国はICCを制裁対象にして赤根智子所長に対しても制裁を科した。これに対して高市首相は抗議の意思すら表明できなかった。高市首相は国連総会の一般討論演説を行ったが、議場を埋めた聴衆は1割にも満たない惨状だった。イスラエルのネタニヤフ演説とほぼ同水準だった。

 演説で高市首相は敵国条項の廃止を訴えたが、すかさず中国から敵国条項は重要な機能を有しているとの反論を受けた。

 これに対して、中国の習近平主席に対して米国は最大級の接遇を提供した。トランプ大統領は習近平氏が到着する1時間前にワシントンのアンドルーズ空軍基地で待機。習近平氏を乗せた航空機が到着するとすかさずレッドカーペットが敷き詰められた。
 

 習近平夫妻をトランプ夫妻がタラップ下で出迎え。

 米軍儀仗隊が空砲で栄誉礼を奉じた後、セレモニーが開催された。

 到着翌日の24日にはホワイトハウスで米海兵隊サイレント・ドリル小隊と米統合軍司令部による大統領礼砲が披露された。

 上空では米軍のジェット戦闘機とステルス爆撃機が編隊飛行を行った。国家元首を迎える儀礼として最高水準のプロトコルによる接遇が示された。

 歓迎式典でトランプ大統領は「第二次世界大戦では我々は同盟国となった」と述べた。これに対応して習近平主席は「第二次世界大戦中、中米は肩を並べてファシズムの侵略と戦った。この歴史を中国人民は忘れず、米国人民も忘れていない」と述べた。

 トランプ大統領は同日夜、習近平夫妻訪米に対する歓迎晩さん会を開催。

 習近平氏は乾杯のあいさつで次のように述べた。「80年余り前、中米両国の人民は肩を並べて戦い、日本軍国主義の侵略者に抵抗し、有名な“ハンプ越え”の航空路を切り開いた。抗日戦争の期間、中国の軍民は数百人の米国人飛行士を救出し、数十万人の命を代償とした。」

 このことを日本経済新聞は「習氏の抗日歴史観に危うい呼応」の見出しを打って報道した。日本のメディアは当時の米国の同盟相手が蒋介石率いる中華民国の国民政府で、いまの中華人民共和国ではなかったことを強調する。これが日本が主張する台湾問題とも深く関わる点だ。

 第二次大戦中の米国の同盟国が中華民国であったことは事実。カイロ宣言も米英と中華民国の首脳会談による宣言である。しかし、米国は1979年の米中国交正常化において「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であること」を承認した。これは日本も同じ。1972年の日中共同声明において、これを承認している。

その中国に対して日本政府は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」とする中国の立場を十分理解して尊重し、「ポツダム宣言第八項に基く立場を堅持する」とした。

 ポツダム宣言第八項は領土条項で、「カイロ宣言の条項は履行せらるべく」としている。カイロ宣言は「満洲、台湾及び澎湖島のような日本国が清国人から盗取したすべての地域を中華民国に返還すること」が「同盟国の目的」と明記している。

 中華民国を引き継いだのが中華人民共和国であり、米国も日本も中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを認めた。したがって、「中華民国」は「中華人民共和国」に置き換えられることになる。そのため、米国が中華人民共和国に対して第二次大戦時に「同盟国だった」と表現することに問題はない。

 日本政府は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認した日中共同声明を踏まえて台湾=中華民国と国交断絶した。1972年の日中共同声明で日本は「一つの中国」を認め、台湾の中華人民共和国への返還を認めた。このことを踏まえて大平正芳外相は衆議院予算委員会で「台湾と中華人民共和国の対立の問題は基本的に中国の国内問題である」と国会で答弁した。

 したがって、台湾有事が生じても、日本政府としては、これを「中国の国内問題」として取り扱うことが必要になる。ところが、高市首相は昨年11月7日の衆議院予算委員会答弁で「台湾有事で米軍が来援し、戦艦が使われ、武力の行使を伴うなら、どう考えても存立危機事態になり得るケース」と述べた。これは、「台湾有事で米軍が来援すれば、日本は集団的自衛権を行使して、米軍とともに中国と戦争状態に移行する」との意味になる。

 これは「台湾有事は基本的に中国の国内問題」とした政府答弁に明らかに反するもの。また、日本と中国は72年共同声明、78年平和友好条約で、「日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立すること」「両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと」を確認している。

 「内政に対する相互不干渉」を確認し、「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと」を確認している。台湾と中華人民共和国との対立の問題に対して介入するのは、明白な「内政干渉」であり、その際に、集団的自衛権を行使するのは、「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと」に反するもの。これが昨年11月7日の高市首相発言に中国政府が厳しい対応を示している背景だ。

 高市首相は昨年11月7日の発言をいまだに撤回してない。したがって、当然のことながら謝罪もしていない。高市首相はトランプ大統領に媚びて、トランプ大統領が日本側に立つことを懇願したが、トランプ大統領は高市首相の懇願を振り払った。「米中は日本軍国主義と戦った同盟国」とする中国の基本的立場を肯定したのである。

 トランプ大統領の高市首相と習近平主席に対する接遇の格差を見れば、米国が中国と日本のどちらを重要視しているのかは明白だ。予測通り米中は接近し、日本は孤立した。日本の孤立を招いたのは高市首相の暴言と暴政にある。

 「是を是とし、非を非とする」姿勢がなければ外交は成り立たない。崩壊した日本外交を立て直すには、まずは、高市首相が非を非と認める謙虚さと誠実さを保持することが必要不可欠だ。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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