【インタビュー】「研究」から「社会実装」へ 桜十字先端イノベーションセンターが描く共創
桜十字先端イノベーションセンター(SACRA)
統括責任者 遠藤正英 氏
桜十字グループが福岡で運営する研究拠点が「桜十字先端イノベーションセンター(SACRA)」として新たなスタートを切った。前身の「桜十字先端リハビリテーションセンター」は研究開発(R&D)を担ってきたが、今後は研究成果を社会で生かす「R&A(リサーチ・アンド・アプリケーション)」を掲げる。統括責任者・遠藤正英氏に、刷新の狙いと共創の姿を聞いた。
R&DからR&Aへ転換
──前身の「桜十字先端リハビリテーションセンター」は、どのような経緯で開設されたのでしょうか。
遠藤正英氏(以下、遠藤) 私は理学療法士として約15年前に入社し、義肢装具を専門に研究を続けてきました。研究開発の依頼が増えたことから、病院として組織的に研究を引き受ける体制をつくろうと、2018年4月に同センターを開設しました。病院は、企業が共同研究をもちかけようとしても、窓口がどこかわからないことが多くあります。その窓口を明確にする狙いがありました。その後、研究機関としての登録も行い、科研費の採択件数は7件にのぼります。リハビリ業界で研究を受託するという当初の目的は果たせたと考えています。
──なぜイノベーションセンターとして再出発しようとしたのでしょうか。
遠藤 これまでは企業や研究者から依頼を受け、データを取り、改善点をフィードバックするところまでが役割でした。しかし、効果が認められても、企業が販売や事業化につなげられない例が多くありました。「桜十字として一緒にできることとして、我々も伴走することが必要だ」と考えました。また、活動を続けるなかで、肺を補助するロボットなど、リハビリ以外の案件も増えていました。実態がすでにリハビリにとどまらなくなっていたことも、名称を変えた理由です。組織面では、これまでの実証・検証を担う研究部門を残しつつ、新たに事業開発部門を設けました。
民間病院だからできる研究
──民間病院が研究機関をもつことには、どのような強みがありますか。
遠藤 大学の研究は、効果を証明することが主な目的です。大学の研究成果が現場へ降りてくるものだとすれば、患者に最も近い民間病院から発信していく研究も必要になります。「我々の場合は、ニーズに近いシーズを見つけ、インキュベートさせることが大事だ」と考えています。当グループは子どもから高齢者まで全年齢を対象に事業を展開しており、幅広い現場で実証できる点が強みです。
──共創はどのような仕組みで進める予定ですか。
遠藤 福岡にはシェアオフィスのような入居型の拠点が多くありますが、我々は入居型ではありません。担当者を配置し、こちらから企業や研究者にコンタクトを取っていきます。場所よりも人を重視した体制です。桜十字グループが展開する多様なサービスの現場を、検証のフィールドとして活用できることが強みです。検証で効果が確認されれば、たとえば当グループの多くの病院に導入して実績をつくり、他の病院への普及にもつなげていきたいと考えています。今後はピッチイベントなども積極的に開き、企業のニーズを聞く仕掛けをつくっていきます。
──連携先に条件はありますか。また、現在はどのような取り組みを進めていますか。
遠藤 連携先の業種や規模は問いません。ベンチャーから大企業まで幅広く受け入れています。検証の対象も、まだ商品になっていないものから販売中のものまでさまざまです。ただし、医療、介護、福祉の分野は得意です。現在、共同研究は46件、事業化に向けた取り組みは32件ほどあり、企業数では約30社にのぼります。脳卒中患者向けの手のリハビリロボットの開発や、AIを活用した医療現場の書類削減などに取り組んでいます。連携先は大学と企業がほぼ半々で、ベンチャーはまだ少ない状況です。
「何でも相談できる場」へ
──センターではどのような人たちが働いているのでしょうか。
遠藤 メンバーは10人前後で、全員が兼務です。私も訪問診療や訪問歯科などの事業を担当しています。これまではリハビリ職が中心でしたが、事業開発部門には、リハビリ職以外の人材も必要になります。看護師など他職種の人材にも加わってほしいと考えています。現場に身を置かなければ現場の声は拾えませんので、できれば現場の業務と兼務してほしいです。雑談のなかで聞いた現場の困りごとを拾い上げ、研究や事業化につなげていくことが大切です。「大学の研究団体とは違う強みが我々にはある」という思いがあります。
──今後の展望をお聞かせください。
遠藤 新規事業であれば1年程度でかたちにできますが、医療機器の開発は認証の関係でさらに数年はかかります。まずは相談を受けた案件を1つずつかたちにしていきたいと考えています。
認知度の向上は最大の課題ですので、今年度中に少なくとも1回はピッチイベントを開く予定です。海外展開については、今は地に足をつけて取り組む段階ですが、可能性を閉ざしているわけではありません。一緒に考えてくれる企業がいれば面白いと思います。
研究と実装を繰り返し、実績を積み重ねることで、「あそこに相談すれば何でも解決してくれる」と思ってもらえる場所を目指したいです。
【岩本願】
<プロフィール>
遠藤正英(えんどう・まさひで)
2012年に桜十字福岡病院の前身・友愛病院に入職。病棟マネジャー、リハビリ部主任を経て、17年からリハビリ部長。柳川専門リハビリテーション学院、九州医療スポーツ専門学校の非常勤講師。日本理学療法士協会分科学会運営幹事などの役職多数。21年から、桜十字グループ福岡事業本部リハビリテーション統括。









