2024年11月25日( 月 )

北朝鮮「労働党大会」36年ぶり開催、3代目の首領は「先軍国家」を崩壊させるのか?(前)

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 今年は、西暦2016年。日本では「平成28年」だ。しかし、北朝鮮では「主体105年」である。金王朝の初代である金日成が生まれた1912年を元年としているのだ。そのことを、まず認識しなければならない。ものごとの考え方(歴史観)が、まるで違うのだ。

 その主体105年5月、朝鮮労働党の党大会が36年ぶりに開催された。この事実は、何を意味するのか?

 父親(金正日)もできなかった党大会を息子(金正恩)が開いたのである。父親を超えるためであるのは、間違いない。

roketto 祖父(金日成)の時代から、北朝鮮トップの念頭から離れないのは、「米帝国主義者」である。朝鮮戦争のときには、北朝鮮全土の猛爆の嵐を加えた「仇敵」に対抗して、祖父は秘かに核開発を始めた。2代目の金正日がこれを「発展」させ、そして恐怖の3代目が危険な火遊びを続けている。これが実態だ。相次ぐミサイルの打ち上げ失敗を、「火遊び」と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。
 36年ぶりの党大会は、3代目の火遊びを「制度化」するための儀式だ。

 「仇敵」の米国が最近、大胆なことを言っている。ウェンディ・シャーマンという女性が、「北朝鮮で内部崩壊またはクーデターを想定するのは不可欠である」と言っている。イランとの核交渉を担当した、元国務次官のやり手だ。彼女はヒラリー・クリントンの国務長官時代、外交ブレーンを務めた。ヒラリーが大統領になると、彼女は米国外交・安保の要職につく。だから彼女の言動を、「平壌」はカリカリしながらも注視している。

 「内部崩壊やクーデターの可能性」。北朝鮮専門家からすれば、常識的なことを彼女が言ったのは、今月3日、米ワシントンDCで開かれた朝鮮半島セミナーの昼食会だ。ランチを食べながらの気楽な会話だ。
 誰がクーデターを起すのか――。これも回答は簡単だ。「軍部」である。では、北朝鮮にとって「軍部」とは何か?

 戦後70年も経つと、多くの日本人には「軍部」のイメージがない。だが、年寄りに聞いてみればわかる。専横的な武力を背景にした権力志向集団のことだ。戦前の日本でもそうだったが、この集団には複雑な利害と忠誠競争がはびこり、国家を滅ぼす元凶だ。

 日本軍国主義には「統制派」と「皇道派」があった。手元にある「日本史小辞典」を参照しよう。

<統制派>
 昭和前期の陸軍の派閥。永田鉄山、東条英機、武藤章、池田純久ら10人が中心。次に起こる戦争は陸軍主導の下で統制する国家総力戦であるとした。2・26事件後の粛清人事で皇道派を一掃した。

<皇道派>
 昭和初期の陸軍の派閥。荒木貞夫、真崎甚三郎、柳川平助らの将官と国家改造を希求する青年将校らで形成。2・26事件で敗れたが、近衛内閣では荒木、柳川を閣僚に起用した。

 では、北朝鮮の「軍部」はどうなっているのか?

(つづく)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
(後)

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