2024年11月26日( 火 )

原油安がもたらす世界経済への影響(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 原油価格を決定する最も重要な要因は、やはり需給関係であろう。そのような意味において、シェールガス革命は、原油価格に多大な影響を与えている。

 アメリカは世界最大の原油消費国で、以前は日量900万バレルくらいを輸入していた。しかし、アメリカはシェールガス革命によって、世界1位の産油国に躍り出ている。今まで輸入していた量が多かっただけに、アメリカの市場へのインパクトは大きい。
 アメリカはいろいろな理由があって、原油の輸入を続けてはいるが、その量がかなり減っている。アメリカへの輸出が減った分は、原油市場で供給過剰をもたらす。それに、世界経済が低迷することで、中国などでの需要も減少している。需要は減少しているのに、産油国は供給を減らす気配がないので、原油安は続くわけである。

usa2-min それから最後に、リーマン・ショック後、アメリカ政府は経済を立て直すために、量的緩和を実施した。量的緩和でジャブジャブになった資金は、株式、債券、それから原油の市場にも入るようになった。WTIの実需は1日50万バレルであるのに対して、先物取引の取引量は、1日1億バレルに上るようになった。原油は金融商品の一種になって、原油先物の価格が原油の価格を決定するようになったのだ。ところが、原油安が続くことによって産油国の財政が悪化し、金融市場に入っていたオイルマネーが流出し始めた。原油市場から資金が逃げることによって、原油価格は上がるに上がれない状況でもある。

 それでは原油安で、世界経済にどのようなことが起きているだろうか――。

 原油安によって、産油国から消費国に富が移転している。金額規模で言うと、3兆ドルくらいの所得移転効果が発生している。とくに日本では、年間10兆円くらいのコストの削減につながったという試算がある。ガソリン代が下がると、その分残ったお金を消費に回すことができるので、経済にプラスになる。石油だけでなく、石油を原料にするさまざまな商品の価格にも影響するので、波及効果は大きい。
 しかし、原油安は良いことずくめではない。産油国が財政悪化に陥ることによって、世界経済の不安定要因になる。

 産油国のオイルマネーが株式市場などから引き上げられることによって、株式市場では価格の乱高下が起こっている。豊かになった産油国がオイルマネーで実施していた建設、造船、プラントなどに、甚大な影響が出ている。
 韓国の場合、建設などで中東の依存が高かっただけに、業績不振は深刻である。原油安は意外なところでも影響が出ている。

 アメリカでもシェールガス革命で沸いていたところは、寒波が押し寄せている。シェールガスの開発コストは50~60ドルと言われている。今の原油価格では、採算割れである。
 シェールガス開発企業は大小合わせて4,000社くらいで、投資された金額は100兆円くらいと言われているが、今の状況だと、その3分の1は倒産すると言われている。そうなると、ざっくり33兆円くらいの損失が発生することになるので、大きな問題である。

 ベネズエラなどでは、生活必需品が手に入らないなど、経済が混迷しているが、原油安が長期化すれば、その地域が拡大することを専門家は警戒している。今後、原油価格がどうなるのか誰もわからないが、多くの専門家は原油安がもっと続くと予測している。

(了)

 
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