2024年12月23日( 月 )

トランプ氏の北方領土カジノ構想 日米ロ3カ国のベンチャービジネスとなるか(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 そして、本題の「北方領土カジノ構想」です。2005年、トランプ氏が来日した際、私にいろんなビジネスプランを紹介してくれました。当時、最大のテーマになったのが「国後島のリゾート開発」です。自分の持つ経験、資金、ノウハウを投入し、ホテル、カジノ、商業施設、アミューズメントパークが一体となった統合型リゾート施設(IR)やハブ空港を建設したいとアピールしていました。

 トランプ氏は浮き沈みを幾度も経験しています。大成功もあれば破綻もありました。トランプ氏はお酒をあまり飲まない、煙草もしない、ギャンブルもやりません。とはいえ、不動産開発、ビジネスにおいては「ギャンブラー」的な面があります。「ここぞ」と思ったら資金を投入します。ニューヨークの不動産開発において、全面的に彼の資金を支えていたのは日本の銀行でした。

money-min 特に彼に潤沢な資金を提供していたのは、長銀(日本長期信用銀行)でした。彼の方から希望したのではなく、長銀の方から「使ってください」とばかりに大量の資金が融資されたといいます。

 ところが、日本でバブルが崩壊すると、長銀始め日本の銀行は手の平を返して「貸しはがし」を行いました。「2、3年待って欲しい」とトランプ氏も懇願したそうですが、銀行は彼の申し出を断りました。

 「あんな惨めな思いをした事はかつてなかった」と、彼は語っていました。「日本の銀行は信用できない。もう二度と日本とは付き合わない」とまで思ったようですが、その後また考え直します。「失敗したのはそれだけ先が読めなかったからだろう。自分の目を覚まさせてくれたのは日本の銀行ではないのか?」。

 彼が破綻した時、日本の銀行も米国の銀行も資金を引き上げたのですが、唯一彼に投資した「救世主」がいました。ロシアの投資ファンドでした。当時のロシアは資源大国として注目された時で、経済新興国として発展しており、海外の投資案件を目の色を変えて模索していたわけです。

 ロシア・ファンドが注目したのはトランプ・カジノでした。カジノでは多額のお金がやり取りされます。そこでは本物と偽札を判別させる紙幣識別機が欠かせません。この識別機の開発に一番秀でているのはロシアのメーカーであり、トランプ・カジノではロシア製の識別機が多く使用されています。トランプ氏にとってロシアは恩人であり、後年、「モスクワにトランプ・タワーやカジノを造りたい」と語っていました。

 しかし、ロシア国内で一番開発の余地があるのはシベリア、カムチャツカ、北方四島等の極東地域です。首都モスクワから見れば「忘れ去られた土地」です。北方四島の人口は2万人以下であり、国後、択捉の住民の三割はウクライナ系で、強制移住で住まわされた経緯があります。一方、自然や資源は豊かです。近年、国後島には50トン超の金鉱脈があるとも報じられました。海洋資源だけに留まらない魅力はありますが、これらを開発するには技術も資金も足りません。

 ロシア国内の未開発地域に注目していたトランプ氏ですが、ロシアでの不動産取得は思うようにはいかず、土地の使用権は認められても所有権は認められず、投資できない状況がありました。例外的に投資ができる環境として挙げられたのが、北方四島でした。日本・ロシアの国境の島であるこの地域を、第三国・米国資本として参入し、開発させる。その突破口として「国後島開発計画」を彼は立ち上げます。そこへの訪問客として期待していたのは中国の富裕層でした。昨年12月に日露間で合意された北方四島の共同開発ですが、約10年前、トランプ氏が提唱した計画から発したものでもありました。

 私は以前、自著『ハゲタカが嗤った日』(集英社インターナショナル)で、イ・アイ・イ・インターナショナル社長・高橋治則氏のことを書いた事があります。彼は「日本のドナルド・トランプ」との異名を持つ不動産王でした。日本だけでなく、環太平洋地域にまで彼の資産は広がり、一兆円規模とまで言われていました。その彼が一番力を入れたのがニューヨークであり、リージェンシー、フォーシーズン等のホテルを買収し、成功していたのですが、バブル崩壊後、彼も長銀から手の平を返され、破綻してしまいます。

 この高橋氏とトランプ氏は親交があり、北方四島の開発計画に高橋氏も誘われていました。ですが北方領土はソ連時代から不法に占領されている経緯があり、日本企業は参入できない状況があります。この政治的問題が一番の課題でした。そのため、ここ10年程、この計画はお蔵入りしていたのです。しかしトランプ氏の大統領当選により、再び脚光を浴びる事になります。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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