2024年12月24日( 火 )

予測不能な北朝鮮の動きとビジネスチャンス(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 いずれにせよ、世界にとって最も謎の多い国の代名詞が北朝鮮であることは衆目の一致するところ。50年前から経済データの公表を全て中止しているお国柄だ。史上最年少とも言われる、新たな指導者、金正恩にしてもさまざまなミステリーが付きまとっている。その多くは根拠がはっきりしないもの。とはいえ、北朝鮮に関する情報はなかなか外部からはうかがい知れないため、噂に尾ひれが付きやすい。検証するのが難しいため、世界のメディアが好き勝手に誇張した独裁的指導者の姿を撒き散らしているのが現実である。いわば、「言った者勝ち」に近い状態が続いている。

 例えば、「金正恩は幼い頃からのアルコール依存症とスイス製のチーズの食べ過ぎで、お腹が出過ぎてしまい、自分のペニスが見えなくなった」とか。はたまた、「性的不能を改善するため、毒蛇のエキスが欠かせない」といった類だ。

 更には、自分の伯父にあたる張成沢が中国との貿易で私腹を肥やしていたことが判明したため、彼とその一族を「マシンガンで皆殺しにした」とか、「生きたまま犬の餌食にした」といった話もまことしやかに伝えられたものである。

 しかし、これらは全て噂に過ぎない。特に、我が国でも大きく報道された張成沢の処刑に関するおどろおどろしい出来事は中国のイエローペーパーが冗談として掲載したものだった。こうした冗談やウソも繰り返し報道されると、世界中に「何をするか分からない恐ろしい独裁者」として、金正恩のイメージが定着しても致し方ないだろう。当の本人にしても、若さゆえそうした近寄りがたいイメージもプラスと受け止めているのかも知れない。

 金正恩が世界の国家指導者の中で最年少であることは間違いないだろうが、その生年月日は確認できない。とはいえ、年齢や生年月日がはっきりしないのは金正恩だけではない。祖父にあたる金日成は「建国の父」と言われているが、その出生地も生年月日も巷間言われているものとは実際は大きな違いがあるというのが定説だ。同様に、金正恩の父親、金正日に関しても同じことが言われてきた。

 元々、スイスの国際スクール2校に学んだ経験があるため、金正恩は祖父や父親と比べれば外の世界を直接体験している。マイケル・ジャクソンやマドンナの音楽を耳にしながら育った金正恩。そのため、西側の国々との間で交渉の余地が多分にあると期待されていたものである。

 スイスの学生時代には、スキーをはじめ北朝鮮ではほとんど知られていないスポーツや文化、そして食事にも馴染んでいたと言われている。北東アジアで最大規模となる高級スキーリゾートを北朝鮮に建設したのも、自らのスキー好きが高じたせいか。また、大のバスケットボールファンであることを公言して憚らない金正恩はアメリカのNBAのスター・プレーヤーであったデニス・ロドマンを数度に渡りピョンヤンに招き、親しく付き合いを重ねている。これも、金正恩の独自の「スポーツ外交」と言えようか。

 要は、幼いころから皇帝のような特殊な環境で育てられたため、自らがリスクを取ることには躊躇をしないという性格が身についているようだ。国家の最高指導者に就任してからも核開発やミサイルの発射実験など世界の批判を浴びながらも一向に動じる気配を見せていない。それどころか、ロドマンにオバマ前大統領への「平和対話メッセージ」をことづけ、「いつでも電話して欲しい」と伝えるほどの大胆不敵さを見せている。

 北朝鮮は世界で最も貧しい国の1つとされている。にもかかわらず、金正恩自身は美食家で知られる。世界中から高価な食べ物やアルコール類を調達し、自国産のタバコのヘビースモーカーでもある。

 20代から、糖尿や肥満の傾向が明らかに見てとれるが、これは何とかして祖父、金日成の最盛期の体格に近づけようとする努力のたまものとの見方もある。若くして指導者となった金正恩には自らの権威付けのために、人一倍努力と工夫を凝らしているわけだ。時に独裁家を装い、時にちゃめっけを振りまく。その本当の姿は誰も知らない。というより、誰にも明かさない。そうすることで、権威を保とうとしているのであろう。どこまでそうした仮面が効果を発揮するのであろうか。

 いまだ最大の同盟国である中国には足を運んでいないが、2015年10月、朝鮮労働党の創立70周年の祝賀行事に際しては、中国から招いた劉雲山政治局員(序列第5位)を歓待し、中国との友好ぶりを世界に印象付けた。

 石油などエネルギー源の全て、そして食糧の半分を中国に依存している北朝鮮。北朝鮮にとって貿易の90%以上が中国相手である。生殺与奪権を中国が握っているといっても過言ではないだろう。そのため、父親の金正日はしばしば大名列車を仕立てて中国を訪問していたが、金正恩は一度も中国を訪問していない。当然、習近平とも会ったことがない。

 「世界皇帝」を目指している習近平とすれば、自分の子供ほど年の差のある金正恩を対等な存在とは認めていないはずだ。下手に出れば「可愛がってやってもいい」と思っているらしいが、どうやら金正恩は中国の属国と見なされることに拒絶反応を示しているようだ。若さの故であろうか、身内でもあった伯父の張成沢が対中関係を一手に牛耳っていたことへの反発もあったのであろうか。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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