サウジアラビアの新経済改革「ビジョン2030」と日本(1)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
サウジアラビアのサルマン国王が1か月を越えるアジア歴訪の旅を始めた。マレーシアから始まり、インドネシア、中国を経て、3月12日から15日まで日本に滞在する予定である。サウジ国王の来日は46年ぶりのこと。同行するのは25人の皇太子に10人の閣僚を含む、何と総勢1,500人。中には軍の幹部や宗教指導者も含まれている。昨年、息子のモハンマド副皇太子が来日した時には500人のお供を連れていたが、今回はその3倍となる大デレゲーションだ。
日本の常識では信じられないだろうが、サウジアラビアの王室ではごく当たり前のこと。何しろ毎年のフランスでのバケーションには家族と友人を伴うのが慣例となっているが、毎回、その数は1,000人を超える。イスラム教国では正妻は4人まで認められているが、側室は無限大。そのため富裕層に関しては、家族は増える一方となる。現にサウジアラビアでは皇太子の数は3,000人を超えているほどだ。「至る所にプリンスあり」というお国柄である。
いずれにせよ、大デレゲーションのお陰で、東京都内の高級ホテルやリムジン会社は「サウジ国王特需」でウハウハのようだ。とはいえ、これほど大規模の海外訪問を行う理由は何なのか。一行が持ち込むトランクやお土産の総重量は500トンを優に超える。国王専用のメルセデスベンツ2台や電動リフトも必需品となっている。その運搬には計7機のジェット旅客機と貨物専用機が欠かせない。
今年81歳の国王は健康や体調面での不安があるせいか、旅の途中で予定を変更し、休養期間を設けることも頻繁にあるようだ。今回も、インドネシ滞在中、バリ島での1週間の休息が突然必要となった模様で、インドネシアの治安当局は大慌てしたという。サウジ国王の身辺警備のため、インドネシア警察と国軍は史上空前の治安対策を実施することになった。
人騒がせなことだが、そこまでして、今回の長期海外訪問を行うのは何故だろうか。アメリカとの関係が微妙になりつつあるサウジアラビアである。トランプ大統領の誕生を歓迎するメッセージは送っているが、ワシントン訪問よりアジア歴訪を優先するには、それなりの理由があるはず。事前の報道では、「トランプ大統領に会うためワシントン訪問が計画されている」とのことだったが、それを後回しにしてのアジア訪問となった。
要は、イスラム圏をテロ国家扱いするトランプ政権のアメリカではなく、インドネシア、マレーシア、ブルネイなどイスラム国の多いアジアの成長を味方につけたいとの思惑に他ならない。見方によっては、「アメリカへの当てつけ」とも受け止めることができよう。
実は、その背景にはサウジアラビアの経済が危機的状況を迎えていることが隠されている。多少値を戻したとはいえ、原油安が長引いているため、国家収入のほぼ9割を原油輸出に依存してきたアラブ世界の大国にとって、未曾有の危機が迫っているからだ。経済構造の大変革なくしては「世界最大の石油大国」も生き残れない時代だ。
そうした背景もあり、昨年9月にアルジェリアの首都アルジェで開催された「石油輸出国機構(OPEC)」の臨時総会では加盟14か国の原油生産量を日量3,250万~3,300万バレルに制限することで合意が得られた。事前の予測では、イランとサウジの対立があり、合意は難しいとみなされていたが、下落の続く原油価格のもたらす危機感が土壇場での合意形成に役立ったようだ。その結果、原油価格は1バレル47ドルにまで上昇。その後も50ドルを超える勢いを取り戻した。
とはいえ、今回の減産合意を加盟国がどのように分担するかを巡っては、その後のOPEC総会で大いにもめた模様だ。加盟国のみならず、非加盟国のロシアなどとの駆け引きが活発化したことは言うまでもない。特に強気のイランは既に制裁前の2011年の原油輸出水準にまで戻っており、結果的に減産の大半はサウジがかぶることになった。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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