公取委がマイクロソフトの独禁調査開始、しかし通報窓口メールはMSクラウドという現実

 公正取引委員会は3月4日、米マイクロソフトおよび日本マイクロソフトなど3社による独占禁止法違反の疑いについて審査を開始したと発表した。対象となるのは、同社のソフトウェアとクラウドサービス「Microsoft Azure」の利用条件をめぐる取引慣行で、第三者からの情報提供も受け付けるとしている。

 公取委が公表した「マイクロソフト・コーポレーションらによる独占禁止法違反被疑行為に関する審査の開始及び第三者からの情報・意見の募集について」によると、同委員会はSIer(システムインテグレーター)やユーザー企業などから電子メールで情報提供を受け付けるとしている。

 しかし、その通報窓口として指定されたメールの受信基盤が、当のマイクロソフトのクラウドメールサービス上で運用されている可能性が高いことが、インターネット上の公開DNS情報の調査から分かった。独禁調査の対象企業のインフラを通じて情報提供を受ける構造になっていることから、制度設計の妥当性を疑問視する声も出ている。

DNS調査で判明したメール基盤

 公取委が公開している通報窓口メールアドレスは次の通りである。

電子メールアドレス:dpidiv_2026―〇―jftc.go.jp
(迷惑メール防止のため、アドレス中の「@」を「―〇―」としている)

 このドメイン「jftc.go.jp」のメール配送情報(DNSのMXレコード)をhttps://mxtoolbox.com/などで調査すると、受信サーバーとして次のホストが指定されていることが確認できる。

jftc-go-jp.mail.protection.outlook.com

 これはMicrosoft 365(Exchange Online)で使用されるメールゲートウェイであり、Microsoftのクラウドメール基盤である。また、このサーバーのIPアドレスはMicrosoftのネットワーク(AS8075)に割り当てられており、DNSサーバーもAzure DNSが利用されている。

 これらの公開情報から、公取委のメールはMicrosoftのクラウドインフラを経由して受信される構成になっている可能性が極めて高いと考えられる。

 もちろん、Microsoftが実際にメール内容へアクセスしているかどうかについては公開情報からは確認できない。しかし、通報メールがマイクロソフトの管理するサーバーを経由して受信される構造であること自体は、DNS公開情報から確認できる事実である。

行政クラウド依存が生む制度の矛盾

 今回の構図は、公取委個別の運用の問題というより、日本政府の情報基盤の構造そのものを反映している。

 現在、多くの政府機関ではメールやオフィスソフト、情報共有基盤としてMicrosoft 365などのクラウドサービスの利用が広がっている。その結果、行政の重要な情報のやり取りが民間クラウドインフラ上で行われる構造が常態化している。こうした状況は行政の効率化という点では合理性がある一方で、今回のように競争政策や独禁調査の対象となる企業のインフラを行政自身も利用している場合、制度的な矛盾に直面する。

 独禁調査のように利害関係が鋭く対立する案件では、情報提供者の安全性や通報制度の信頼性をどのように担保するのかという観点は極めて重要だ。

 今回の公取委の発表は、マイクロソフトのクラウド事業をめぐる競争問題であると同時に、日本政府のデジタル基盤の在り方を改めて問い直す事例にほかならない。行政のクラウド依存が進むなかで、競争政策を担う行政機関自身が特定企業のクラウド基盤に依存する状況をどのように整理するのか──その制度設計の検討が早急に必要だ。

【寺村朋輝】

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