2024年11月24日( 日 )

イギリスを襲うテロと大火災のダブルパンチ~求心力を失うメイ首相(前)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 イギリスのメイ首相には、災難が次々と襲いかかっているようだ。このままでは、首相としての任期を全うできないのでは、との声が与党保守党内部からも湧き上がってきた。早ければ数週間、遅くとも数カ月以内に辞任を余儀なくされそうな雲行きである。次期首相候補の名前までもが取り沙汰されるようになった。

 思えば、EUからの離脱を決めて国民投票で賛成を得たものの、その後の総選挙では与党が過半数割れという厳しい結果に直面することになった。6月19日からEU離脱交渉が始まったが、その先行きは厳しいものになりそうだ。

 マンチェスターのコンサート会場を襲ったテロ事件。その後のロンドン橋周辺での殺傷事件やモスクに集うイスラム教徒を狙った自動車テロ。そして、極め付きはロンドン西部の低所得者向け高層住宅で起きた火災である。200世帯以上が暮らしていた24階建てのアパートが瞬く間に猛火に包まれ、6月20日現在、79人の死亡が確認されているが、最終的にはその被害は更に拡大するのではと懸念されている。

 この大火災が発生した直後、最大野党である労働党のコービン党首やロンドンのカーン市長は被害住民らを直ちに訪問した。コービン氏は避難者を抱きかかえ、慰め、こうした悲劇を二度と繰り返させないと訴えて回った。また、エリザベス女王は自らの誕生日の祝賀行事を中断し、被災者をウィリアム王子らと共に見舞ったほどである。

 ところが、メイ首相は火災現場を訪れたものの、救急隊員や警察官としか面談せず、警備上の懸念を理由に住民のもとを訪ねなかった。ただでさえ、人気が急落中のメイ首相は被災住民から詰め寄られる場面を世界に配信されることを避けたかったのであろう。

 これには、避難住民のみならず、多くの国民から不満と非難の声が噴出することに。慌てやメイ首相は火災発生3日後に現場を訪れたが、予想通り、住民からは「臆病者」「恥を知れ」「出ていけ」「責任をとれ」など、聞くに堪えない罵声を浴びせられたものである。

 ただでさえ、相次ぐテロ事件の影響を受け、指導力が低下していたと言われていたところに、このような大規模火災の対応の失敗は、メイ首相をさらなる窮状に追い込むことになってしまった。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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