2024年12月22日( 日 )

福博の文化・芸能の拠点として世界に発信する博多座へ(後)~芦塚日出美相談役

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市民参加はミッションの1つ

 ――福岡・博多の文化・芸能の拠点として、持続性のある運営が確立されてきたように思いますが、芦塚相談役は、今後の博多座のあり方をどのように考えていますか。

 芦塚 博多座の企業理念の第一は、「良質な演劇を上演し、お客さまへ満足を与え、地域文化の発展および発信基地を目指し、国際化を推進する。これにより心豊かな生活と潤いのある社会の実現に貢献する」です。地域文化の発展および発信基地という点でも、とくに自主制作作品が要になると思っています。

 中洲発祥の辛子明太子「ふくや」の夫婦を描いた「めんたいぴりり」(15年3月公演、出演:博多華丸、酒井美紀ほか)や、全国的に有名な福岡市の精華女子高校吹奏楽部を題材にした「熱血!ブラバン少女」(17年3月公演、出演:博多華丸、星野真里ほか)は、地元を舞台にした作品です。それぞれ、地元の方々にもご出演をいただいており、「めんたいぴりり」では、博多祇園山笠・中洲流の50名の方に、実際に舁き山を担いで出演していただき、「熱血!ブラバン少女」では、精華女子高校吹奏楽部の部員に、実際に舞台で演奏していただいております。こうした作品への市民参加というかたちもミッションの1つとしてやっていきたいと思います。知り合いが出るとなれば、見に来られる方も増えるので動員効果が期待できますしね(笑)。また、12月は、「市民檜舞台の月」として、市民の方に市の舞台として開放しております。

 ――博多座が外国人観光客のツアーに組み込まれる日も近いような気がします。新しい取り組みとしては、どのようなものがありますか。

 芦塚 現状は、日本人のお客様がほとんどですが、歌舞伎を見に来られる外国の方もいらっしゃいます。今後、同時通訳や古典解説の多言語化などに力を入れていかなければなりません。

 自主制作では、来年3月の公演の14年9月に公開され、周防正行監督で大ヒットした同名の日本映画を舞台化した「舞妓はレディ」(主演:唯月ふうか)で、初の博多座発ミュージカルに挑戦します。福岡県出身の俳優・平方元基の活躍に期待したいところです。

 また、順番が前後しますが、自主制作では、今年11月公演の豊川悦司原作「夫婦漫才」も面白い作品になります。主演の夫婦役は、中村梅雀と大地真央。演出をラサール石井が手がけ、脚本は個性派俳優として活躍する池田テツヒロ。涙あり笑いありの爆笑喜劇です。

 ――全国各地で公演されている俳優の方たちに、博多座はどのように評価されていますか。

 芦塚 設備の面では、まず、音響が良いといわれます。これは、実際に、舞台に立ってやってみないとわかりませんが、ほどよいタイミングで自分が発した声や音がクリアに返ってくるそうです。音の返りの良さは、演者にとって発奮材料になります。あとは、楽屋の居住性について、高い評価をいただいています。最大200人収容の楽屋は、バス・トイレ付の幹部用5室、トイレ付の個室7室、大中楽屋8室、リハーサル室2室を用意しています。博多座の周辺には、食事処やホテルが数多くあり、利便性が高く、過ごしやすいといわれます。

 ――施設や街が気に入ってもらうことは、興行や俳優の誘致においても強みになりますね。

 芦塚 一番の魅力は、地元の方たちの人情ではないかと思います。中村勘三郎さんの話では、「四谷怪談」のお岩が毒薬を飲む場面で、客席から「その薬、飲まんとよ!」と、女性の方の悲痛な叫びがあがったそうです(笑)。今後も、役者とお客様が一体となって楽しめるような施設運営に取り組んでいきたいと思います。

(記者後記)
 博多座が、文化・芸能の拠点という公共の役割を持つ公設の施設である以上、収益性のみを追求するわけにはいかない。とはいえ、赤字が常態化すれば、施設運営に制約が生まれ、集客力の低下、経営悪化という悪循環に陥る。昨今、多くの自治体で、施設の老朽化にともなう公共施設の建て替えラッシュを迎えているが、残念ながら、オープン後の現状を見る限り、“建てること自体”が目的ではないかと感じられる施設も少なくはない。運用を建ててから考えるため、不必要な設備の維持費、人件費などで運営コストが肥大化し、施設運営が困難な状況に陥っているのだ。博多座は、市民のための劇場としてのあり方を見つめ直し、市民の文化・芸能の拠点という公共の役割を果たすために経済性を追求し、持続性を高めつつ、事業の発展性を切り拓いた。公設民営施設の成功モデルになることが期待される。

(了)
【山下 康太】

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・博多座

<プロフィール>
芦塚 日出美(あしづか ひでみ)
1939年長崎県生まれ。九州電力(株)副社長、九州通信ネットワーク(株)(現・(株)QTnet)社長から2010年6月、(株)博多座4代目社長に就任。演劇需給会社から自主制作も行う演劇興行供給会社へ転身を図るほか、中期経営戦略・計画を策定するなどの経営改革を行い、12年度から5年連続の黒字化をはたす。今年6月に退任し、相談役に就任した。

 
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