裁判例に学ぶ労働時間管理(1)~タイムカードだけで十分か?
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会社の滞在時間=労働時間?
残業時間の上限が法律により規制され、また、大手企業における未払残業代が問題となるなど、労働時間に対する社会全体の認識が大きく変わりつつあります。そのようななかで、各企業は、従業員の労働時間を管理する義務を負っていますが、その点について、「タイムカードを使用しているからうちは大丈夫」といった認識をお持ちではないでしょうか。
厚生労働省のガイドラインによれば、使用者自らが現認するかタイムカードなどの客観的な記録を基礎として確認するべきであると示されています。そのため、行政の立場からすれば、会社でタイムカードが使用されている限り、そのことを問題とすることはありません。しかし、会社に対して残業代の支払いが請求された場合、証拠として、タイムカードがあれば十分といえるでしょうか?打刻時間=労働時間となるか
裁判ないし労働審判において残業代が請求される事例はとても多く、タイムカードが証拠として提出されることもまた多くあります。そして、裁判所は、タイムカードが提出された場合、タイムカードの記載に従い、労働時間を認定します。たとえば、「タイムカードは就業場所において機械的に打刻されるものであるから、タイムカードで打刻された時刻に、原告が就業場所にいたこと、タイムカードに打刻されている出勤時間と退勤時間の間、原告が被告の指揮命令下にあり、労務を提供していたことが一応推認できる」(2012年5月16日東京地裁判決)と判示されています。ほかにも、同様のことを述べる裁判例は多数存在します。
しかし、これが本当に妥当な判断といえるのでしょうか? 裁判所の考え方が正しいとすれば、業務終了後に意味もなく会社に残っていたとしても、その後タイムカードが打刻されてしまえば、その時間も労働時間と認められてしまうということになります。
そもそも、タイムカードは従業員がタイムカードをレコーダーに通した時刻を記録するものです。その時間、業務を行ったことまで記録するものではありません。しかし、裁判所は、「会社にいるのであれば、仕事をしていたはずだ」という考え方に立ち、タイムカードがある場合には、その通りの労働時間であったと認め、そうでないのであれば、業務をしていなかったことの証明を会社に求めることとしています。
そのため、会社が裁判所に対し、タイムカード通りに仕事をしたわけではないと主張しても、それを裏付ける十分な証拠がなければ、タイムカード通りの時間を労働時間と認めることが裁判の常識となっています。業務の実態を把握しよう
タイムカードの記載が会社における従業員の労働時間の実態を適切に反映したものであれば、タイムカードは簡易で便利な労働時間管理のツールであることは間違いありません。しかし、以上のように、事業の実態、たとえば、営業職であるため社外で業務を行うことがほとんど(本当に仕事をしているかわからない)という場合や、会社のなかに休憩所などの福利厚生施設があり、業務以外で滞在することが可能な場合などには、タイムカードだけで労働時間の管理をすることは、非常に危険な問題をはらんでいるということが理解できると思います。
(つづく)
<プロフィール>
中野 公義(なかの・きみよし)
なかのきみよし弁護士事務所
1977年4月生まれ。労働基準監督官、厚生労働省本省(労災補償、労使関係担当)勤務の経験から、労働事件に精通している。
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