一方、ヨーロッパではフィリップスが光ディスクの開発を行なっていました。ソニーもフィリップスも、グループ内にレコード会社を持っていたのが強みでした。
そしてソニーのデジタル技術とフィリップスの光技術が融合し生まれたのが「ソニー・フィリップス方式」です。ソニーとフィリップスはVTRの共同開発に加えて、改めてデジタル・オーディオ・ディスクのフリー・クロスライセンス契約(お互いに自由に特許を使用できる)を結びました。
他にもドイツからはテレフンケンの機械式、日本からは日本ビクターの静電式、それぞれの規格を、オーディオ懇談会に提案しました。
ソニー・フィリップス方式が提案した光学式は、ディスクにピットという1.6ミクロン間隔(髪の毛の太さなの40〜50分の1)の小さな凹の配列から出来ている信号面が内部にある一方、表面にはまったく溝がなく、高速回転でも摩耗しないのが特徴です。レコードの針の代わりに、ピックアップから出る光で信号を読み取ります。ですから原音に近い音を読み取れ、何度でも繰り返し聞くことができます。
これに誤り検出訂正を組み合わせて、コンパクトディスクの基本設計が出来上がったのです。誤り検出訂正とは、間違った記録やディスクに傷がはいった場合など、音飛びを防ぐために自動的に符号の並び替えを行うものです。ピックアップは高速回転するディスクを追従するため、豆粒ほどの小型レンズを動かす仕様になっています。
フィリップスが提案したディスクのサイズは、ディスクの対角線11.5cm、14ビットでした。11.5cmというのはDIN規格のコンパクトカセットテープ(通常カセット)と同じ大きさにした物でした。ここでまた、名指揮者・ヘルベルト・フォン・カラヤン氏が登場します。
11.5cmだと60分の信号しか入らない。「ベートーベンの交響曲「第九」を1枚のディスクで再生するためには12cmが好ましい」とソニーは提案しました。12cmにすると最大74分42秒の信号がはいります。ここで、カラヤン氏の意向が強く働いた、という伝説があるのです。
これでコンパクトディスクの基本設計が決定しました。レコード盤は樹脂で出来ていますが、コンパクトディスクは固くて反りにも熱にも強いポリカーボネートという新素材です。
表のレーベル面はTOCと呼ばれるものですが、演奏時間や頭出し状報などが入っています。ですからレーベル面に傷がつくのが一番まずいのです。
1981年秋のオーディオフェアーでは各社が試作品を参考出品していました。
この試作品は各社とも上から開いた扉のトレーに垂直に入れるものばかりでした(正立型)。家庭で場所を取らず、将来小型にするには水平トレーが良いとの考えからソニーは水平トレー型で商品化を目指しました。
1982年ソニーから発売されたコンパクトディスクがCDP-101(168,000円)です。
エジソンのアナログレコード発明から101年目にデジタルプレヤーが登場したとの意味で命名されました。
試聴すると重低音のすばらしいモデルでした。ソニーの社員の多くが購入しました、私もその1人です。
CDP-101の場所を取らない水平トレー方式の発売には各社がアッと声をあげ、今も水平トレー方式が標準となっています。
他社の営業マンは我が社こそコンパクトディスクの元祖だと大きな声を上げていました。しかしCDP-101発売以降は、その声も小さくなっていきました。
このコンパクトディスクの基本設計は、『RED BOOK』としてソニーとフィリップスでともに大切に保管されています。

画期的なCDプレーヤー1号機 CDP-101 価格168,000円
【池田 友行】