急成長も社会はまだ発展途上 カンボジアはどう発展するか(前)
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CMCオフィス(株) 代表取締役 大谷 賢二 氏
目を見張る経済発展を遂げたカンボジア
私がカンボジアと関わり始めて22年目に入った。この間のほとんどはNGOとしてカンボジアの地雷問題に取り組み、地雷撤去、被害者救済支援、地雷原での教育支援(学校建設)などを行ってきた。前半の十数年は、道路、橋、電気、通信などのインフラにはほとんど改善が見られず、日本を始め、世界から投入されたはずのODA資金はどこに消えたのだろうという感じであった。
しかし、2017年現在のプノンペンを見ると、とても同じ国とは思えないほどの発展ぶりである。街には高級自動車が溢れ、人々は携帯・スマホで自由に話し、メールやSNSを楽しんでいる。高層ビルが立ち並び中国、韓国、日本、アメリカやヨーロッパの企業の看板や映像が映し出されているのだ。イオンモール・プノンペンには各国のさまざまな商品が並び、各国の料理が堪能できる。エンターテインメントも充実しており、アイススケートやボーリング、そして世界最新の映画が上映されている。
私が最初に足を踏み入れたカンボジアとは、どう見ても別の国のよう見える。この発展ぶりは【表1】の1人あたりのGDPの急速な伸びを見ても裏付けされている。
1975年から79年に至るポル・ポトの支配と虐殺に始まり、続く内戦で国内は混乱。そして93年、国連軍の監視下でのUNTACによる初の選挙による首班選び。その後、人民党とフンシンペック党との内紛などはあったが、海外からの支援で、カンボジアは着実に平和の下での国家再建を進めてきた。海外からのカンボジアへの入国者も順調に増え、投資額も中国を筆頭に多くの国が工場進出や貿易などを通して一気に増加した【表2、3】。
進出が遅れていた日本も投資環境の整った経済特区制度ができてからは、そのスピードは加速し、経済特区への投資額は中国を押さえてトップとなっている【表4】。
これらは、中国や他のASEAN諸国と比べて安い賃金と、カンボジアで加工工場などを建設する際に受けられる特恵関税、流通通貨が米ドルで、しかもその外貨の持ち出しを自由とした利点に支えられてきた側面が大きい。
長期政権下における腐敗と権力の乱用
しかし、前回2013年の総選挙以来、最低賃金が選挙の争点となり、当時61ドルであった最低賃金は徐々に上昇し、現在153ドル、来年には170ドルになる予定で、そうなれば、近隣国との差は国によっては逆転することになり、安価な労働力に支えられてきた競争力の低下は否めないと思われる【表5】。また、教育水準の低さも今後の大きな課題である。
そして今、最も懸念されるのは与党人民党、フン・セン首相の長期政権下における腐敗と権力の濫用、その批判に対する不寛容な独裁的政治手法であろう。9月3日に野党のカンボジア救国党(CNRP)の指導者、ケム・ソカー氏を、13年にオーストラリアで行った支持者への演説を反逆罪に問い逮捕。カンボジアの最高裁判所は11月16日、CNRPの解党の決定と、指導者118名の今後5年間の政治活動を禁止することを命じた。
CNRPは、13年にサム・ランシー党と人権党の合併により結成され、17年6月の地方選挙では40%以上の議席を獲得するなど、与党の脅威となるまでに躍進を遂げた。CNRPの広報担当者は、「裁判所の決定は、この国の民主主義に打撃を与えた。だが、カンボジア内外の民主化運動がこれまで以上に強く結びつく機会となり、致命的なものではない。国際援助機関に対し、与党へ必要な制裁を講ずるよう要請している」と述べ、民主的な変化はまだ起こると予測した。
より色濃くなる中国への依存
日本は、EUとともに18年7月に実施するカンボジア国家選挙に対して、資金援助と技術支援を行っている。最高裁判所の判決によりCNRPは解党されることとなったが、日本を含め西側諸国はこの判決に否定的な立場をとっている。だが、フン・セン首相は、「国際批判に関心がない」としたうえで、11月19日の演説で、「国際社会が援助を削減しても、中国がギャップを埋めると確信している」と述べ、中国寄りの態度は変えない方針を伝えている。
この演説に対して国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理であるフィル・ロバートソン氏は、「民主主義の死」「パリ平和協定の政治的殺害」と反論。また、国際法律家委員会は「人権と法律の支配の危機」と評している。
中国人民政治協商会議全国委員会の王委員会副主席は9月7日、下院議長のヘン・サムリンを訪問。ヘン議長の顧問によると、「中国はこの政治的混乱期にカンボジアの主権を守るため、政府の活動を完全に支持した」と述べた。また、「カンボジアは中国の完全な支持を得ている。カンボジアの成功は中国の成功です。カンボジアへの挑戦は中国への挑戦です」と述べた。
フン・セン首相は、1999年2月に初めてカンボジアの指導者として中国を訪問。2億ドルの無利息融資と、1億8,300万ドルの援助を持ち帰った。数十億ドルの資金援助と借款がカンボジアに流入し続けている一方、両国間の二国間貿易は17年50億ドルを目標としている。同時にアジア開発銀行(ADB)は、アジア全域の発展途上経済の堅調さと工業国の継続的な回復に支えられているとして、17年と18年のカンボジアの経済成長予測を7.1%で据え置いた。
(つづく)
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