2024年11月28日( 木 )

急成長も社会はまだ発展途上 カンボジアはどう発展するか(後)

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CMCオフィス(株) 代表取締役 大谷 賢二 氏

経済的な発展と逆行する市民活動の制限強化

 アジア開発銀行の報告書によると、輸出の多様化、観光業と建設業における成長、そして外国からの支援に立脚した財政政策が協力に推進するかたちで、カンボジアの経済は堅調なペースで拡大を遂げるとしている。

 カンボジア担当のADBカントリーダイレクターは、「農業分野におけるバリューチェーンの発展と生産性の向上、連結性の向上、基礎教育と技術および職業技術の向上、公的サービス提供を向上するための開発費の増加を目指し、ADBは今年からカンボジア政府への支援を拡大している」と述べた。

 一方、ケイト・ギルモア国連人権副高等弁務官は、カンボジアについて「急速な経済成長」と同時に、「野党や人権擁護者を対象とした措置の下、政治的緊張の高まりが継続し、市民の活動が制限されている」状況と評し、野党・救国党党首のケム・ソカー氏の国家反逆罪による逮捕、さらにカンボジアデイリー紙の廃刊に触れ、「残念ながら、市民空間がたしかに収縮していることを確認した」と述べている。さらに、カンボジア政府に対し、国民の言論、表現、結社の自由を含んだ市民的、また政治的な権利を維持するように求めた。

現政権に異を唱える市民だが……

 CNRPが解散させられたことを受け、こうした野党への弾圧に対してEU加盟国は抗議しており、スウェーデンはEU加盟国のなかで具体的な行動を示した最初の国となる。米国はすでに選挙資金を削減しており、先週の裁判所判決以降、懲罰的な措置を取ると述べている。在カンボジアスウェーデン大使館は、同国がカンボジアとの関係を再検討しているとし、「教育と研究の分野を除いて、政府と政府の新たな開発協力協定に取り組むつもりはない」と声明で述べた。

 スウェーデンは過去5年間にカンボジアに年間約2,000万ドルを援助しており、昨年はEU加盟国のなかでフランスとドイツに次ぎ3番目に資金援助の多い国である。

 それに対しても与党人民党(CPP)は、「米国やEUが制裁や選挙資金の削減をしても、中国、日本、ロシアからの支援により、来年の国民選挙は公正かつ円滑に実行できるだろう」と応じている。

 米国と中国がカンボジアに対して行う政治的行動は、外交的代理戦争に似ており「カンボジアと米国との外交的緊張が高まっているため、中国のカンボジアへの政治的影響力が強まっている。カンボジアは外交政策の選択肢が少ないが、米国とその同盟国からの圧力に対抗するために、中国との緊密な関係を構築するだろう」とみる向きもある。

 このような、政治状況のなかで、私は10~11月のカンボジア滞在期間では多くのカンボジアの人と話す機会を得た。それは、タクシードライバー、ホテルマン、レストランワーカー、銀行員、不動産業者、旅行ガイド、NGO職員……あらゆる業種、立場の人たちだったが、今の状況を是とする人は誰もいなかった。現在、一見順調に見えるカンボジア経済の発展状況だが、中国に支えられたフン・セン政権の専横状況がいつまで続くのか、国内、海外の動き次第では大きな転機が訪れないとは限らない、という印象をもった。

(了)

 
(前)

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