小売業―かつてない激変期(11)
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マンネリと顧客評価
もう1つは「ハイロー」の問題である。スーパーマーケットのチラシの目玉商品がその代表格で、これには原価を切っての販売も少なくない。お客も明らかに安さを認識できるその商品を目当てに店にやってくる。問題はその構成比である。経費率が18%の部門で100個の商品を50個ずつ、20%と10%の値入で販売すると利益率は15%になる。そうするとその販売による赤字が3%になり、売れば売るほど赤字になる。対策としては20%の値入の比率を大きくすれば良いだけのことだが、問題は売り手がその比率を思うようにコントロールできないことである。一度安く買ったお客は、同じ商品の価格が高くなると購入を躊躇するようになる。次に安くなるまで待つという行動をとるのだ。これが価格弾力性だ。そうなると店は安売りを繰り返さざるをえなくなる。
スーパーマーケットの悲劇はそれを繰り返すことで最終的にはディスカウントと変わらぬ値入に陥ることだ。にもかかわらず、そこにディスカウントがもつような「お客からの安さのイメージ」は生まれない。利益が薄いのにもかかわらず、集客力が強まらないのである。結果として効率化というテーマを店全体の課題として、本来コストカットをしてはいけない部分にまでそれを強制することになる。その結果生まれるのはどの部門の利益率も理想に遠く、面積あたりの売り上げも低迷するというジレンマである。購入頻度が高い食品購入では、お客はイメージで店を選ぶ。価格と快適性だが、普通のスーパーマーケットに顧客はこの2つを感じることは少ない。結果として、ドラッグストアやディスカウント、高質店に客を奪われるのである。
それでも全国チェーンのスーパーマーケットは複数の業態を集めた商業施設をつくり、そこから上がる家賃収入で営業利益を得ることができる。スーパーマーケットをキーとするNSCと呼ばれる商業施設は単独の出店に比べて集客力が強まる。家賃収入に加えて、広域からの集客も期待できるから、一石二鳥ということになる。ローカル企業にもできなくはないが、投資が大きいことと有力テナントの募集などに小さくない負担が生じる。新たな試みなしで従来の経営を続けていれば、そう遠くない将来に異業態からの大きな影響を受けることになる。低体温症のようなもので、致命的な状態になる。一度指標低下が始まると自然復活はない
ゆでガエルという言葉がある。いきなり熱湯に入れられたカエルはたまらず飛び出すが、ぬるま湯から熱湯に至る過程の中にいるとそのままゆであがって死んでしまうという例えだが、事実は違う。ある程度までは熱くなるお湯のなかで我慢するだろうが、耐えられない高温になると当然そこから飛び出す。
小売の場合もこれに似ている。突然の競合出現やその計画に直面するとそのことに対応する行動をとるのが普通である。問題はそうでないケースである。表4は会員店舗7,000店を超える業界協会のデータである。昨年後半の数値であるが、売り上げ増加の店舗は全体の10%余りでしかない。かなり深刻な状態だが、問題はその指標をどう捉えるかだ。店舗の指標は人の健康診断の指標に似ている。いきなり悪化すれば慌てて何らかの処置を求めるが、少しずつの指標悪化は「まあいいか」とか「そのうち良くなるかも……」といって放置するのが普通である。やや減少と回答した企業にはそんなところも少なくないはずだ。しかし、一度悪化を始めた指標は自然によくなることはない。
来年こそ改善と思いながらも、指標は毎年数%ずつ低下する。そのうちどうしようもないところに至ってやっと打つ手の遅れに気がつくというのが、低体温症的現象である。(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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