危機一髪! データ・マックスvs悪の秘密結社(後)
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(株)悪の秘密結社 代表取締役 笹井 浩生 氏
笹井氏の悪役へのこだわりは、敵である「ヒーロー」への尽きせぬ愛情の裏返しともいえる。美しい母親をもったゆえの悲劇か、父親が何度もかわり、それに伴って転居を繰り返したため、幼少時代の笹井氏は心のどこかで父親の広い背中を追いかけるようになっていた。
ヤバイ仮面以上にヤバイ青春時代だったであろうことを想像して涙目になっていると、チャラい笹井氏の目が笑わずにこちらを見据えていることに気が付いた――そう、この男は、ゴネるクライアントと渡り合い、銀行の融資担当者との修羅場をくぐりぬけた冷徹な「社長」でもあるのだ。同情は禁物だ。冷徹なはずの笹井社長の話で意外だったのは、従業員を正社員として雇用しているということだ。浮き沈みの激しい業界ゆえに、人件費はできるだけ抑えたいはずなのだが。
「結局、この業界に入る人間って、自分も含めて良い意味でも悪い意味でも『変態』が多いんです。でも、そんな人たちに居場所をつくりたい……なんて言うと『真面目か?』と返されそうですが、僕含め、なにがなんでもヒーローショー続けたい変態だからこそ、キチンとするとこはキチンとしたいですから(笑)」(笹井氏)「父親の背中を追いかけて、いつしか社員に父親のような愛情を注ぐようになった」。記事のオチとしてはすっきりするものの、どことなく笹井氏にノセられた感があってすっきりせず、ここはひとつ社会派のノリで記事を締めたいと思う。
テレビや映画に登場する現代のヒーローはアイデンティティーに悩み、人間関係に振り回されている。自分の存在にすら自信を持てないヒーローは、いつも深刻な表情でどこか頼りなさげだ。一方、悪党には迷いがない。信じる悪の道を一心不乱に突き進み、目的のためなら手段を選ばない潔さとギラギラした情熱を併せもつ。モラルを飛び越えた自由に酔っているようで、いっそすがすがしいではないか。
これは、正義のヒーローが常に受け身であることと無関係ではあるまい。悪党が何か問題を起こすまで正義の出番はなく、かといって「待ち」の時間に自主的に地域清掃するわけでもない優柔不断な存在。空いた時間に「ああでもない、こうでもない」と自省を繰り返す姿は、どこか女々しくも見える。
「正義」は時代遅れのカビ臭いイデオロギーなのだろうか。原稿が遅れてしまった言い訳ではないが、ここ数カ月間は障がい者福祉詐欺だの、森友学園疑惑だのと、悪党こそがはばをきかせる時代を象徴する事件ネタを追っていささか消耗した。いっそ悪の道に進んでしまおうか。甘い誘惑にヨロヨロと引きずり込まれそうなとき、笹井氏の言葉を思い出した。
「悪党は倒されるためにいるのです」
なるほど。”正義感”古臭い言葉かもしれないが、死語にはさせたくない。(了)
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