イラン攻撃で世界秩序は変わるか(5)トランプの狂気と想定外の影響(前)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

トランプの対イラン戦略は完全な誤算

イメージ    トランプ大統領の独りよがりの言動に世界が振り回されている。トランプ氏は二期目の大統領に復帰して以来、8カ国以上を爆撃しているが、同時に「8つの戦争を終結させた」と主張し、今でもノーベル平和賞に値すると自分では信じているようだ。

 そんなトランプ氏は、爆弾投下と最高指導者ハメネイ師の暗殺によって政権転覆を図れば、イラン政府を打倒する革命を起こせると想定していたが、それは裏目に出て、逆にイランを団結させてしまい、もはや後戻りはできない状況に追い込まれている。

 確かに、米軍は交戦相手に大きな損害を与えることができるが、イランの軍事力と決意はそれによって大きな影響を受けて、かえって強固なものになり、米軍といえども、その軍事力に耐えられないことが時間の経過とともに明らかになってきた。ただし、米国の主要メディアもトランプ政権に忖度し、イラン戦争の実態を明らかにしようとはしていない。日本の主要メディアも同様である。

 2020年、米国のシンクタンク「クインシー国家運営研究所」は、米国とイランの軍事対決に関する報告書を発表し、米国はどちらに転んでも負ける状況に陥ると分析。この報告書は米海兵隊のポール・ライパー将軍が主導したミレニアム・チャレンジ戦争ゲームに基づいた分析であり、米軍がイランとの戦争を開始した場合の結果とその後の影響を考察したもの。

 この戦争ゲームではイランへの攻撃は「完全な狂気」と結論付けられている。要は、1991年から2003年にかけてイラクで採用された戦略で米軍がイランに侵攻し占領を試みれば、大失敗が待ち受けているというわけだ。

露呈した米軍防空システムの限界

 実際、米国の防空・ミサイル防衛システムは、高額な費用をかけてはいるものの「見かけ倒し」であることが露呈しつつある。たとえば、パトリオット・ミサイル・システムは、高度な攻撃に対して迎撃率がほぼゼロであり、貴重なレーダーシステムはイランの特攻ドローンによって組織的に機能停止させられている。

 皮肉なことに、低性能の長距離ドローンが、この地域のミサイル防衛能力を支える高価値レーダーにとって最大の脅威となっているのである。これは重大な技術的ギャップに他ならず、数十年にわたる投資を無意味なものにしている。事態は深刻で、米国は中東の防衛力強化のため、韓国からTHAADミサイル防衛システムの部品を引き揚げ始めており、複数の戦域で同時に敵を抑止する能力の欠如が露呈したかたちである。国防総省は、開戦後わずか2日間の戦闘で56億ドル相当の弾薬を消費したと報じられている。

軍産複合体が生んだ「勝てない戦争」

 また、米軍の限界も露呈してしまった。それは、防衛ではなく利益のために構築されたシステムの意図的な結果に他ならない。国防総省は、軍需産業のための資金洗浄機関と化してしまった。アナリストのアンドレイ・マルティヤノフ氏が説明するように、「米軍は投資収益を追求する軍産複合体の株主の利益のために働いている」。

 結果として、重要な能力は米国の製造業から奪われ、資本は兵士の戦場での勝利ではなく、株主に高い利益を保証する分野へと流れ込んでいる。その結果、400万ドルの迎撃ミサイルが2万5,000ドルのドローンを効果的に迎撃できないという、おぞましい非効率性が生み出されているのである。

 このシステムは、戦争に勝利するためではなく、コストプラス契約とリピートビジネスのために設計されていると言っても過言ではない。この金融腐敗は、戦略的な脆弱性に直結する。米国はすでに、防空ミサイルや迎撃ミサイルの備蓄が深刻な枯渇に直面しており、長年にわたるウクライナへの移転と国内生産率の低さによって、その状況はさらに悪化している。

 軍事経済アナリストが警告するように、米国は国防総省の「機能不全」な調達システムのために、次の大規模な戦争で敗北する可能性があるわけだ。これほど由々しいことはない。対艦ミサイルなどの重要な兵器は、中国との紛争が勃発すれば、わずか1週間で枯渇してしまうだろう。軍産複合体は、自己満足に浸っているに等しいにもかかわらず、目先の収益は肥大化している。

 結論からいえば、イランに対する戦争の問題点は、他国の政権を転覆させようという考えが、まったく狂気の沙汰ということだ。それは、イラクにおける米国の占領が小競り合いに見えるほどの泥沼化を招くだろう。残念ながら、トランプ氏の周りにはイランに対する限定的な戦争を有意な選択肢と考える者も多い。

 その構想は、イランとその周辺各地の施設を爆撃し、制裁によって経済を麻痺させ、国内で政権転覆につながる民衆蜂起を煽動するというもの。そのモデルは、1991年から2003年までの失敗に終わった米国のイラク封じ込め作戦だったのだが、その失敗からの教訓はまったく生かされていないようだ。 

 退役空軍大佐で、戦争ゲームの専門家とされるサム・ガーディナー氏は、米国によるイラン攻撃を想定した複数のシナリオを実施し、「イラン問題には軍事的解決策はない。外交を機能させるしかない」と述べている。

 しかし、トランプ大統領はイランに対する米イスラエル合同攻撃の朝に演説を行い、米軍の兵士がイランの核保有国化を防ぐために戦い、命を落とすだろうと示唆したが、それはイスラエルの思惑が色濃く絡んでいたと思われる。イスラエルのユダヤ資本から資金提供を受けている多数の民主党と共和党の政治家にはイスラエルの意向に反対できない弱みがあるというわけだ。

 トランプ氏は勝ち目のない戦争に若者を送り込むという取り返しのつかない決断を下した。実は、彼は1968年のベトナム戦争の徴兵を5回も回避した人物だ。トランプの父フレッドがニューヨーク州クイーンズの足専門医から「足の診断の結果、歩行に難あり」というウソの書類を提供してもらい、ベトナム行きを免れたことが明らかになっている。自分は兵役逃れしていながら、自国の若者を戦場に送り、命を捧げるのが名誉なことだと主張しているわけで、開いた口が塞がらない。

(つづく)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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