2024年11月22日( 金 )

「鉄道は国家なり」~国土を支える基幹インフラの過去・現在・未来(4)

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JR九州 初代社長 石井 幸孝 氏

 鉄道の登場が当時の物流や産業にどれほどのインパクトを与えたのか、現代の我々にはとても想像できない。携帯電話、インターネット、AIなど「時代を変える」技術を日々目にしているが、鉄道もまた世界を変えた技術だったのだ。鉄道が、九州と日本の現在と未来にどのような影響を与えるのか。国鉄分割民営化で誕生したJR九州を上場会社にまで育て上げた石井幸孝氏が説き起こす。

自動車物流から鉄道輸送への回帰を

▲70年代以降、貨物輸送の主力を担ったトラック

 さて、ここまで鉄道とJR九州の「過去」と「現在」を簡単に見てきました。ここからは鉄道の「未来」の可能性について考えてみましょう。

 鉄道の未来を大きく左右するのが、今大きな動きとなっているモーダルシフトです。モーダルシフトは、「運輸手段の転換」を指します。物流における鉄道の役割を、改めて見直そうというものです。鉄道は装置産業ですから、使わなくても維持費用がかかる。少子高齢化で鉄道に乗ってくれる旅客がいないのであれば、貨物を乗せれば良いわけです。

 鉄道は、かつて国家の命運を左右するほど大きな存在でした。現在の日本では、その地位は相対的に低下しています。その原因の1つが、1960年代に加速したモータリゼーションです。それまでは貨物輸送はもちろん旅客も鉄道が主流でしたが、高速道路を始めとした道路の整備、自動車の普及、石油価格の下落など、さまざまな理由で、物流の主役は自動車へと移ります。その一方で、重大事故の多発、ストライキの頻発、サービス低下など、慢性赤字に転落していった当時の国鉄にもその原因があったことは否めません。2016年現在、国内貨物輸送におけるシェアは自動車輸送50.9%に対して鉄道はわずか5.1%となっています(トンキロベース)。

 トラックのメリットは、鉄道と比べて少量の貨物を戸口まで、積み替えることなく運べることです。道路さえ通じていれば、どこにでもノンストップで荷物を届けられるという利点があります。しかし、近年人手不足が叫ばれるなか、厳しい労働環境を強いられるトラック運転手もまた不足しているという報道を見かけます。また、トラックは環境負荷が高いことも大きな課題といえるでしょう。

 鉄道輸送のメリットは、長距離・大量に輸送できることと、環境への負荷が低いことです。日本の貨物鉄道輸送は、首都圏~福岡などの長距離輸送が主になっています。このような長距離を、ひと編成およそ650tの貨物を輸送できることが大きな利点です。同じ量を10tトラックで運ぼうとすると65台、運転手は最低65人必要です。これはもちろん環境面にも影響していて、同じ重さの貨物を輸送する際のCO₂排出量を比較すると、鉄道はトラックの約7分の1となります。エネルギー効率も10分の1くらいです。

 石油類の輸送も、鉄道輸送が担っている大きな役割の1つです。東日本大震災では、東北本線が不通になったため、日本海側を大回りして岩手県の盛岡までガソリンや軽油を輸送しました。多くの鉄道マンたちが全力を尽くし、被災地に燃料を届けることができたのです。鉄道輸送の本領を発揮した場面だったといえるでしょう。

(つづく)
【聞き手・文・構成:深水 央】

<プロフィール>
石井 幸孝 (いしい・よしたか)

1932年10月広島県呉市生まれ。55年3月、東京大学工学部機械工学科を卒業後、同年4月、国鉄に入社。蒸気機関車の補修などを担当し、59年からはディーゼル車両担当技師を務めた。85年、常務理事・首都圏本部長に就任し、国鉄分割・民営化に携わる。86年、九州総局長を経て、翌87年に発足した九州旅客鉄道(株)(JR九州)の初代代表取締役社長に就任。多角経営に取り組み、民間企業JR九州を軌道に乗せた。2002年に同社会長を退任。

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