2024年11月22日( 金 )

【豊洲市場訴訟】被告・東京都の反論への反論(1)

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 10月11日に東京都中央卸売市場の移転・開場を予定している豊洲市場。しかし、移転元の築地市場の仲卸業者らが6月29日、東京都を相手取り、同市場・水産仲卸売場棟の建築基準法令違反の是正(除却)を求めて提訴。7月9日、この建物の仮の使用禁止の義務付けを要請する申立が行われた。ついに訴訟に発展した市場移転問題。被告・東京都の反論について、この問題の争点である建築基準法令違反を指摘した(協)建築構造調査機構の仲盛昭二代表理事に解説を依頼した。

 ――東京都は、豊洲市場・水産仲卸売場棟の1階柱脚について、その構造方法が、建築基準法および同法施行令に定められた構造計算に基づいており、法令に違反していないことを、建築主事が確認し、『検査済証』が発行されていると主張している。『検査済証』が発行されていれば、構造計算が適法であることの証明になるのか。

 仲盛昭二代表理事(以下、仲盛) 『検査済証』は、建築物の完了検査を行い、建築確認(または計画通知)通知書添付図面と現場の施工状況が一致していることを確認された場合に交付されます。

 建築物の完了検査は、添付された設計図面が適法なものであるという前提(建築確認や計画通知が適切に行われたという前提)の下に実施されるので、建築確認審査で見逃された違法な設計要素を含んだ図面であっても、完了検査では、その図面と現場が一致してさえいれば合格とし、「検査済証」が交付されます。あの姉歯関連のすべての建物に「検査済証」が交付されていた事実からも、「検査済証の交付」が必ずしも「建築基準法に適合」していることを証明するものではないことは明らかです。

 「建築主事などは、前項の規定による検査をした場合において、当該建築物およびその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは、国土交通省令で定めるところにより、当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない」(建築基準法第7条第5項)

 建築基準法第7条の条文の通り、完了検査をして、検査済証を交付するのです。完了検査は、図面通りに施工されていることを確認する検査であり、完了検査において、構造計算書の内容が改めてチェックされることはあり得ません。構造計算書のチェックは、建築確認(計画通知)で、すでに終了しているのであるから、完了検査の時点で、検査員は、建築確認を受けた(確認済証が交付)構造計算書は正しいという前提で検査を行うものです。

 東京都の主張は、「検査済証」が構造計算の適法性を証明するものであるかの如く誤解を生じさせることを目的とした極めて意図的な主張です。

 ――東京都は、原告の指摘は、「建築基準法および同法施行令に定められた構造方法ではない」と主張している。建築基準法および同法施行令以外の規定などは、構造計算や建築確認に考慮する必要はないのか。

 仲盛 建築に関する規定は、いくつもの法令や告示、日本建築学会などの規準、日本建築センターなどの指針と、実に細かく定められています。建築基準法は、大まかな方向性を示す法律であり、具体的な数字などはあまり示されておらず、同法施行令において具体的な数字が示されています。これだけでは実施設計に足りない部分もあるので、さらに詳しく設計の方法を定めているのが、告示や諸基準・指針です。建築設計は、これら多くの法令・告示・規準・指針などに適合させることにより、建築確認済証が交付される仕組みになっているのです。

 建築基準法第20条では、構造耐力を基準に適合させることを定めていますが、具体的な数字は示されず、「政令で定める技術的基準に適合すること」などという表現にとどまっています。

 技術的基準を補完する役割が、建築基準法施行令であり、告示や諸基準・指針です。鉄筋コンクリート造の構造計算は、日本建築学会の「鉄筋コンクリート構造計算規準」に示された具体的な構造計算方法に従わなければ構造計算をすることは不可能です。鉄骨鉄筋コンクリート造についても同様に、「鉄骨鉄筋コンクリート構造計算規準」に示された具体的な構造計算方法に従って構造計算をすることが、構造設計の基本です。特定行政庁である東京都が、これらの法令・告示・規準・指針などを否定するのであれば、建築確認制度の崩壊を招くことになりかねません。

 つまり、建築基準法は、憲法のように、建築に関する大原則と方向性を示しているのであり、憲法の下に具体的な法律として民法や刑法など、さらに細かい法律が無数に存在し、自治体ごとに条例も定められることにより法治国家として成立していることと同じく、建築においても建築基準法と、これを補完する政令・告示・規準・指針などが存在しているのです。

 東京都が、建築基準法および同法施行令以外の法令・規準に従う必要がないと主張していることは、いわば、法治国家を否定するものです。相手方である東京都の主張は、全国の建築技術者の建築確認申請にともなう実務の常識から逸脱した詭弁そのものです。自らのミスを繕うために、このような乱暴な主張をすることが、建築技術者としては信じられません。

 私たちは、1年以上も前から、東京都知事、都議会議員(改選前)、設計者である日建設計、日本建築構造技術者協会の会長たちに、書面を以って注意喚起してきましたが、一切、反応がありませんでした。私たちの指摘が事実に反しているのであれば、否定すれば良いものを、否定も反論もせず「黙殺」してきた理由は、東京都や日建設計らにとって、不都合な真実であるがゆえに、黙殺せざるを得なかったものと思われます。

(つづく)

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