2024年11月17日( 日 )

安売り戦略の栄枯盛衰 常識外を行くドンキ(3)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

PBは価格競争の切り札にはならない?

 “業態類型”という流通用語がある。著名な流通コンサルタントだった渥美俊一氏によるものだが、渥美氏はその分類の基本は最終的には価格戦略そのものということを口にした。今でもそれはSM・GMS・Dept(デパート)・HC(ホームセンター)・CVS(コンビニエンスストア)などと用いられているが、今ではそれぞれが異業態の分野の壁が壊れ始めている。とくに価格で見るとその境目はさらに見えにくい。競争が厳しくなるにつれて価格を意識した販売が増えるからだ。

 ここでもう一度DSというポジションを考えてみよう。アカデミックな部分から見れば別だが、普通の消費者にとって業態類型は何の意味もない。気に入った商品をいかに安く買うことができるかが重要なだけだ。

 小売業が安く売るためには2つの条件がいる。低い経費額と安い調達原価だ。大手問屋がほぼなくなったアメリカの場合、大手小売業は自ら配送センターをもち、生産者から直接調達した商品を店舗に配送する。アメリカ最大の小売業ウォルマートもその手法だ。問屋を利用しないから、当然メーカーとの直接の価格交渉になる。その際、ブランドメーカーと同じような商品をつくり、店舗に並べる。大量仕入れとプライベートブランド(PB)という競合でブランドメーカーに原価引き下げを求めるのだ。

 アメリカの消費者はPBに日本ほどの抵抗はない。理由はその歴史と品質だ。アメリカの小売業は長い時間をかけてPBを磨いてきた。加えて、価格に合わせた品質を消費者に提供する。その結果生まれるのが“EDLP”(エブリー・デイ・ロー・プライス)といわれる価格訴求だ。もう1つは仕入れに加えて、極端に低い値入で販売するという低値入の原則を貫くという手法だ。
 EDLPの典型はコストコである。コストコの粗利益率は、ここ数年こそ11%になったが、それまでは長い間10%台を堅持してきた。このことは、その経費率を1ケタに抑えているということでもある。コストコの商品のほとんどは「KIRKLAND」ブランドのPBだが、消費者から支持されているのはその品質だけではない。大手メーカーから提供される商品は形態が違うほか販売単位が違う。消費者から見ればよその店では買えないものばかりという品ぞろえだ。低い経費と粗利益率、売上に比べて決して多くない利益という構造で既存店舗と坪あたりの売上を伸ばし続けた企業の戦略は簡単には真似ができない(【表Ⅱ】参照)。

 一方、日本の場合は事情が違う。我が国にはほぼ完璧な問屋制度が備わっている。製造、輸送、販売の協業システムだ。メーカー直接の取引で大幅に原価を下げるのは容易ではない。かといってPBはナショナルブランド(NB)に比べて消費者の評価が低い。とくにイオンのPBに代表されるようなメーカーを表示しないPBは人気がない。これらの問題解決はいかに大手小売業でも容易ではないのだ。
 さらに問題なのは、大手小売業がPBに求めるものが価格の安さと粗利益率の高さにある。販売管理費が高い大手小売業は必然的にPBに高い利益率を求める。メーカーとしてはそれに応えるためには原価率を下げるしかない。原価を安くして儲けを大きくすれば当然、良いものはできない。「安かろう悪かろう」どころか「高かろう悪かろう」がPBの評価にさえなりかねないのだ。

 こんななか、ヤオコーやライフといった有力SMが従来型と違うプレミアムと称する品質重視型のPBにシフトし始めた。イオンもPBビールの製造を韓国メーカーからキリンビールに切り替えるなど一部方向転換を図り始めている。しかし、それがうまくいくかどうかは不透明だ。日本の消費者はPBに対して「漠然とした不審」をもっている。理由のない不審ほどその解決が難しいことはない。それを考えると価格がだめなら品質という手法はコストコやトレーダージョーの不変の営業戦略から見るとはなはだ心もとない。

 アメリカのDS企業は価格だけでなく、売り方や品質にも徹底してこだわる。売り手から見て正しい価格は「売れる値段」であり、買い手から見れば「買える値段」だ。決して「儲かる値段」ではない。セブンプレミアムのようなブランド併記のPBは、選択が限られる少ない品ぞろえの売り場とアイテムと価格以外の購入要素が少なくないコンビニだからこそ成り立つ。SMやGMSが同じような成功を手にするのはおそらく容易ではない。

※クリックで拡大

(つづく)

【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

(2)
(4)

関連キーワード

関連記事