2024年11月25日( 月 )

平和で豊かな世界の実現を~ヤッファ・ベンアリ駐日イスラエル大使に聞く(4)

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イノベーション国家の土台とは

▲国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 浜田 日本とイスラエルの企業間の提携は自動車や人工知能(AI)、そして医療やサイバー分野まで幅広く進展しているようですね。

 ベンアリ ご指摘の通りです。現在、70社を超える日本企業がイスラエルで事業を展開しています。日本からの投資額は40億ドルに達し、過去4年間で120%の増加です。日本の大手総合商社はいずれもイスラエルに拠点を構えており、我が国はアメリカのシリコンバレーと今や肩を並べるほどです。優秀な人材の宝庫でもあり、「イノベーション国家」と呼ばれるようになりました。世界的なIT企業の人材供給源にもなっているのはご承知の通りです。

 浜田 アップル、インテル、Googleなど枚挙にいとまがありませんね。ところで、観光分野での往来はどうですか。

 ベンアリ 17年の実績では、イスラエルから日本への観光客は3万3,000人ほど。日本からイスラエルには1万8,000人ほどです。イスラエル人の日本への関心の高さがうかがえる数字です。同じ年、中国からイスラエルには10万人を超える観光客が訪れています。これは直行便のある無しが大きく影響しているように思われます。

 おかげさまで、我が国では政府、産業界、そして学界の3者間の連携がすこぶるスムースです。これが「イノベーション国家」の土台となっています。政府が長期戦略に基づくインセンティブを打ち出し、研究者が頭脳を駆使したイノベーションに邁進し、その成果を産業界が享受するという好循環が強みでしょう。いわゆる「スタートアップ起業」も盛んです。人口800万人ですが、スタートアップ企業は8,000社を超えています。イスラエルから生まれた新たな技術の数々は世界のビジネススタイルを変貌させつつあるといっても過言ではありません。とくに、マザーボードを始め、コンピュータやITの分野では先駆的な取り組みが着々と成果を上げています。また、太陽光発電システムやバイオマス発電、植物工場など環境分野でのイノベーションも際立っているといえるでしょう。

「海外志向」イスラエルと「ひきこもり」日本

 浜田 日本は長く、「モノづくり大国」と言われてきましたが、独自の発明や世界標準づくりでは欧米の後塵を拝してきたとも言われます。その点、イスラエルはGDPに占める研究開発比率、国民1人あたりの起業率、博士号保有者数や特許取得数でも世界一。日本にとって、そんなイノベーション国家とタッグを組むメリットは計り知れないほど大きいと思います。

 ベンアリ おっしゃる通りですね。イスラエルの強みは「ゼロから1を生む」という点に象徴されています。他方、日本の強みは「1を10に拡大する」という生産性の高さにあるように思います。両者が組めば、鬼に金棒ではないでしょうか。

 浜田 イノベーションでもモノづくりでも、最も大切な要素は人材ですね。

 ベンアリ 同感です。私が注目しているのは、日本における教育の機会の充実ぶりです。全国に800もの大学がありますね。イスラエルに大学は7つしかありません。日本各地を訪れ、専門学校や職業訓練校も重要な役割を担っていることに感銘を受けているところです。加えて、日本の皆さまがモノづくりとは無関係に見えるような音楽や絵画など、文化を日常生活に生かしておられることにも注目しています。町のあちこちでコンサートや音楽会が開かれており、オフィスでも花や絵が飾られていますね。そうした創造力を誘う環境づくりは大いに学ぶ価値があると思っています。

 浜田 イスラエルの若者は海外に留学したり、インターンとして職業訓練の機会を重視していると聞きます。日本では「引きこもり」が社会問題になっているほどで、一時と比べ、海外へ目を向ける若者が減少しています。

 ベンアリ イスラエルでは海外留学が盛んです。いくらインターネットのおかげで、居ながらに世界の情報が手に入ると時代とはいえ、現地の空気に触れたり、直接相手と向き合うといった生の体験は欠かせません。日本の若者は恵まれていると思います。世界中から人々が押し寄せてくるからです。海外に出かけなくとも、日本国内で異文化交流が可能なわけですから。

(つづく)

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