21世紀は東西・南北逆転して「アジア力の世紀」へ!(前)
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筑波大学大学院名誉教授 進藤 榮一 氏
世界政治(東西)と世界経済(南北)の双方で、中国、ロシアなど旧東側諸国が、EUや韓国、インドも巻き込んで主導権を握りはじめた。地軸は確実に、西から東へ、北から南へ移動し続けている。この「アジア力の世紀」に、日本はどのように対峙すべきなのか。
話題の近刊『「日米基軸」幻想』(進藤榮一&白井聡共著・詩想社新書)の著者、進藤榮一筑波大学大学院名誉教授(一帯一路日本研究センター代表、アジア連合大学院機構理事長、国際アジア共同体学会会長)に聞いた。パクス・アメリカーナからパクス・アシアーナへ
――「アジア力の世紀」という観点から、現在の世界・日本を少し俯瞰していただけますか。
進藤榮一氏(以下、進藤) 21世紀に入り20年、冷戦が終結して30年が経とうとしています。今の状況をどう捉えるべきかという時に、アメリカのトランプ大統領の登場を先ず思い浮かべる人も多いのではないかと思います。私はこれを「パクス・アメリカーナ」“アメリカ主導の世界秩序”が終わったことを象徴していると考えています。
2017年のダボス会議では「保護貿易主義を主軸に据える」ことを謳いあげたアメリカとは対照的に、中国の習近平主席は、「自由貿易体制の維持強化こそ重要であり、中国が国際公共財に資することを強調し、自ら世界秩序維持の主要な役割を演じる」決意を明らかにしました。今やパクス・アメリカーナから、中国主導のパクス・アシアーナへと変貌を遂げ始めています。これは決して中国1国の覇権秩序が出来上がるのではなく、アジアそれぞれの国々が「ヒト・モノ・カネ」の相互依存と相互補完を強め、アジア全体が世界秩序の担い手になり始めていることを意味します。私はこれを「アジア力の世紀」と呼んでいます。
今までの世界秩序は軍事力を背景にしてきました。7つの海を支配した大英帝国、核兵器に象徴される最先端軍事力と世界に800の軍事基地をもって、資源や同盟国を支配する大米帝国です。しかし、21世紀の「アジア力の世紀」は力の内容が違います。私はこれをパワーシフトと呼んでいますが、経済力、しかもそれは国境を越えた経済力なのです。現在は第3次産業革命の第2ステージ「情報革命」の真っ只中にあります。情報革命では、「モノ・ヒト・カネ」と同時に知識と技術が伝播します。すなわち、ものの考え方、政治の仕組み、経済と産業の仕組みが地域のなかで伝播していくのです。
従来アジアは、地理的には、砂漠、4,000m級のヒマラヤ山脈、海峡、島などで分断され、インフラ整備も遅れ、「発展できない地域」と考えられてきました。ところが21世紀の今日、発展阻害要因であったアジアの空間が逆に発展促進要因と変わったのです。インフラに投資をして富を生み出す、これは1国だけの問題でなく、それぞれの国が協働で、劣悪な地域を開発することによって、補完関係が成立し、共同安全保障も確保されるようになります。マーケットへの投資ではなく、インフラへの投資を明確に謳ったAIIB(アジアインフラ投資銀行)はその象徴です。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
進藤榮一(しんどう・えいいち)
北海道生まれ。1963年京都大学法学部卒業。同大学大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。筑波大学教授、ハーバード大学、プリンストン大学などの上級研究員、早稲田大学アジア研究機構客員教授などを歴任。現在は、筑波大学名誉教授、アジア連合大学院機構理事長。専門はアメリカ外交、国際政治経済学。著書に『アジア力の世紀』、『分割された領土』(ともに岩波書店)、『東アジア共同体をどうつくるか』(筑摩書房)、『現代アメリカ外交序説』(創文社、吉田茂賞受賞)、『アメリカ帝国の終焉』(講談社)など多数。関連記事
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