2024年11月22日( 金 )

病態改善のための栄養・食事療法を研究し、機能性食品を未病対策に生かす(前)

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日本機能性食品医用学会 理事長 宇都宮 一典 氏

 人間の体の状態は、「ここまでが健康、ここからが病気」と明確に区別できるものではない。健康と病気の間を連続的に変化する状態を「未病」と呼んでいるが、医療分野ではこの未病の段階から予防介入する必要性が叫ばれている。とりわけ、高齢になっても健康で自立した生活ができる「健康寿命」を延ばすことが国家的な課題となっていることもあり、病気の発症を防ぐ未病対策は、超高齢社会においては欠かせないアプローチといえる。そんななかで今、注目を集めているのが日本機能性食品医用学会(理事長:宇都宮一典氏)だ。生体調節機能や生体防御機能といった食品のもつ機能性を医療手段に活用することを研究する学会として、2002年12月に発足した。同学会の理事長で、厚労省・食事摂取基準策定検討会の委員でもある宇都宮一典氏(東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授)に、食事摂取基準の考え方、機能性食品を活用するうえでの課題などを語ってもらった。

食品機能を医療分野で応用する

▲日本機能性食品医用学会 宇都宮 一典 理事長

 本学会は、科学的な視点から食品機能を研究し、安全性や有効性のエビデンスを明らかにしながら、機能性食品を未病対策や健康増進に生かすことを目的としています。一言でいえば「食品機能を医療分野で応用する」ということになりますが、代替医療のように治療に用いるのではなく、あくまで予防領域、未病ケアへの応用という考え方です。機能性食品には、国が制度化した特定保健用食品や機能性表示食品、また、サプリメントと呼ばれる栄養補助食品などがありますが、本学会ではこれらを含めた広義の意味での機能性食品を研究対象としています。

 その前提として、医学部教育では手薄だった栄養学や食糧学の知識を学ぶ必要があります。最近は、開業医の先生方の間でも、薬物療法の前の予防手段として食品機能への関心が高まっていますので、毎年8月に開催する教育セミナー、12月に開催する学術総会には多数の先生方が参加していただいています。ただし、学会として特定の機能性食品を勧めているわけではありません。食品機能に関わる正しい知識、あるいは栄養・食事に関する知識、さらには食行動と疾患との関係などを研究して、その成果を提供していくことが目的ですから、始めから機能性食品ありきではないのです。この点は誤解のないようにお願いしたいと思います。

栄養・食事療法のあり方を探っていく

▲食事摂取基準の最大の特徴は
 その指標にある

 患者さんのなかには医薬品を服用しながら、自分の判断でサプリメントなどを利用している方がいます。医師の了解のもとで機能性食品をうまく利用すれば、医薬品の服用量を減らせる場合がありますが、実際はそう簡単にはいきません。食品成分のなかには医薬品と相互作用を起こして、医薬品の効果を増強したり減弱させたりする成分もありますので、患者側は機能性食品を摂取していれば、医師に申告していただきたいと思います。そして、医師側もその事実に向き合うために、機能性食品の存在を直視し、しっかり勉強しておく必要があるでしょう。

 とくに高齢者の方はいくつかの疾患を併せもつ場合が多いので注意が必要です。糖尿病があれば糖尿病の専門医、腎臓病であれば腎臓の専門医を受診して、疾患ごとに医薬品が処方されますので、結果的に1人の患者さんが何種類もの医薬品を服用するケースが少なくないのです。それぞれの専門医は、自分の専門領域の治療薬を処方しますので、どうしても多剤併用にならざるを得ない。もちろん医師はポリファーマシーの危険性は十分認識していますが、専門性の壁があって専門外の医薬品については把握することが難しいのです。医薬品の多剤服用に機能性食品が加われば、相互作用のリスクはさらに高まることになります。ですから、疾患に至るプロセスに着目し、とくに生活習慣に起因する病態については、誰がどのようにコントロールしていくのか。病態改善のための栄養・食事療法のあり方について、方法論を探っていくことが必要になります。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
宇都宮 一典 氏

日本機能性食品医用学会理事長
1979年、東京慈恵会医科大学卒業。85年、同第3内科大学院修了。96年、同講師。2001年、米国コロラド大学留学。02年、糖尿病・代謝・内分泌内科准教授。10年、同主任教授。主な研究テーマ:糖尿病合併症の治療、臨床栄養学。とくに糖尿病性腎症を中心とする合併症の診断と治療を専門としている。診療部長を務める東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科では、糖尿病に関しての診断から治療、合併症の管理に至るまで、あらゆる領域に専門医を擁し、豊富な治療経験を有している。一般の糖尿病の診療のほか、腎症を合併した糖尿病患者には食事療法を中心とする専門外来を設けている。

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