2024年11月23日( 土 )

病態改善のための栄養・食事療法を研究し、機能性食品を未病対策に生かす(後)

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日本機能性食品医用学会 理事長 宇都宮 一典 氏

「目標量」設定ではエビデンスを重視

▲東京慈恵会医科大学

 また、食事摂取基準の策定にあたっては、国内外の論文を対象とする系統的レビューの結果に基づいて行われていましたが、レビュー方法の標準化や透明化が不十分で、それぞれの摂取基準のエビデンスレベルも明示されてこなかったという問題がありました。このため今回の策定方針では、「目標量」を設定している摂取基準に限定し、レビュー方法の標準化・透明化、エビデンスレベルを記載する考えを示すことが検討されています。

 そもそもエビデンス、つまりEBM(Evidence Based Medicine)とは、医薬品を評価するための手段であって、栄養学研究にはEBMの考え方が馴染みません。被験者を割付けて群間比較する介入研究を、特定の栄養素について厳密に行うのは困難で、数も少ない。ですから、健康・疾病に関するコホートデータを集めて分析する観察研究が、判断材料として利用されます。ただし、観察研究は、生活環境などさまざまなバイアスがかかってきますので、その点を考慮しなければなりません。

 たとえば、最近16カ国のデータを分析した観察研究が、炭水化物の摂取量が多い国ほど死亡率が高いという結果を報告し、これが糖質制限ブームで誇張されています。しかし、東南アジアなど炭水化物の摂取量が多い国は、医療環境が悪いという事情がありますし、摂取量が多いと言ってもエネルギー量を考慮しなければ意味がありませんが、総エネルギー量は不明です。

 また、栄養素の影響は普段の食習慣によっても異なるし、人種間の相違も大きい。海外の結果を、日本人にそのまま当てはめることはできません。このように、栄養学研究におけるエビデンスは、医薬品とは異なる点を考慮に入れながら、評価することが求められます。

 我が国にとって大きな課題とされている国民の健康寿命の延伸に、栄養学研究のはたすべき役割は大きいと考えています。本学会が食品機能の科学的究明を通して、その一翼を担うべく貢献したいと願っています。

(了)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
宇都宮 一典 氏

日本機能性食品医用学会理事長
1979年、東京慈恵会医科大学卒業。85年、同第3内科大学院修了。96年、同講師。2001年、米国コロラド大学留学。02年、糖尿病・代謝・内分泌内科准教授。10年、同主任教授。主な研究テーマ:糖尿病合併症の治療、臨床栄養学。とくに糖尿病性腎症を中心とする合併症の診断と治療を専門としている。診療部長を務める東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科では、糖尿病に関しての診断から治療、合併症の管理に至るまで、あらゆる領域に専門医を擁し、豊富な治療経験を有している。一般の糖尿病の診療のほか、腎症を合併した糖尿病患者には食事療法を中心とする専門外来を設けている。

(中)

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