2024年11月29日( 金 )

ベトナム成長の背景は?(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 韓国の文在寅大統領は、最低賃金を5年間で54%引き上げることを公約として掲げた。それにより、2019年の最低賃金は、前年比10.9%増の8,350ウォンとなる予定だ。このような最低賃金の急激な引き上げで、韓国では人件費が高騰し、中小・零細企業は事業存続の危機に立たされている。

 かつて韓国企業は繊維、縫製などの労働集約的な製造業を人件費の安い中国に移転し、韓国には企画機能だけを残した。しかし、現在では中国も人件費がじわじわと上昇してきて、製造拠点としての魅力が失われつつある。また米中貿易戦争が勃発し、中国に製造拠点を構えること自体がむしろリスクとさえなってきた。このような状況下、中国の代替として注目が集まっているのが人件費の安い、東南アジアの国々である。韓国企業は東南アジアのなかでもとくにベトナムに注目し、現在多くの企業が進出している。韓国国内で製造することに限界を感じている企業が増えており、その傾向はさらに加速しそうだ。

 韓国にとってベトナムには、どのような魅力があるのか、今回はそれを取り上げてみよう。

 筆者はベトナム戦争に派遣される軍隊を激励するための歌を今でも覚えている。アメリカの要請により、韓国政府は南ベトナムを支援するため、ベトナムに軍隊を送り込んで戦争に参戦した。朝鮮戦争の発生は日本の経済再建に寄与したが、ベトナム戦争は、米国から多額の支援を受けることにより、韓国の経済発展に寄与した。

 ベトナム帰りの兵士がラジカセなどのお土産をもってきたことをよく覚えている。またベトナムでのさまざまな武勇伝を聞かされた。この話からもわかるように、ベトナムは韓国人にとって身近な国で、その後も、ベトナムへの関心は続いていた。

 ベトナムは1986年に「ドイモイ」という市場開放政策を取り、資本市場経済に移行する。中国は1978年に市場開放したので、ベトナムは中国に比べると、市場開放が8年遅れている。韓国とベトナムが国交正常化したのは、1992年で、米国と国交を樹立したのは1995年である。

 ベトナムは歴史上、中国、フランス、日本など、いろいろな国の支配を受けてきた。ベトナムは南北2つの国に分かれていたが、ベトナム戦争を経て今は1つの国家になっている。ベトナム人はとてもプライドが高い。また戦争を多く経験しているせいか、相手をあまり信頼せず義理堅いとは言えない傾向にある。

 ベトナムの総人口は約9,300万人で、数年後には1億人になることが予想されている。そのなかの労働人口は5,300万人という。ベトナム人の平均年齢は30.9歳で、社会は若く、活力に溢れている。ベトナムの平均賃金は約300ドルで、韓国の人件費の10分の1の水準である。ちなみに、中国の人件費は7~9万円なので、ベトナムの人件費の2倍以上となる。

 ベトナムは地理的に中国に近く、製造工場の移転先として有力な候補地の1つになっており、安い人件費を求めて、中国からベトナムに工場を移転する事例が相次いでいる。ただ、中国には部品などのサプライチェーンが整っているが、ベトナムにはそれがまだ未整備のようだ。

 ベトナム政府の市場開放政策は功を奏し、ベトナム経済は目覚しい発展を遂げている。ベトナムは過去10年間、年平均6%~7%の経済成長をしている。今の韓国や日本では考えられないほど高い経済成長率である。

(つづく)

(後)

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