「南側大統領」、北の聖地・白頭山に登る 忍び寄る経済危機を忘れ空騒ぎ(後)
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文在寅ショック
ソウルのアジア大会(1986年)当時から韓国取材を続けてきた経験からいうと、韓国という国は「スポーツ大国」になることで国家的アイデンティティを確立し、国家的な発展を支えてきた国だ。しかし、その勢いは急速に失われつつある。インドネシアで開かれた今年のアジア大会が、その良い実例だ。
韓国は98年のバンコク大会以来20年ぶりに、日本にメダル数2位の座を奪われた。難攻不落と自信を見せていたアーチェリーやテコンドーなどの「お家芸」で新興国の追い上げを許した。韓国は「南北統一」という幻影に踊らされているうちに、足元の砂がこぼれ始めたというべきだろう。
経済協力開発機構(OECD)は20日、韓国の経済成長の予測値を2%台に引き下げた。今年5月の予想値3%から2.7%に下方修正したのである。米国(2.9%)、中国(6.7%)。日本(1.2%)と、他国の予測値はそのまま維持された。米国の経済成長予測値が韓国を上回ったのは、オイルショック(80年)、通貨危機(98年)。MERS(中東呼吸器症候群、2015年)の3回しかない。韓国経済は「文在寅ショック」という内因によって危機を迎えつつある。
韓国民の半分近くが「文政権になって経済状況が悪化した」と感じている。韓国経済新聞が世論調査専門機関「リアルメーター」に委託して調査(9月14~16日)した結果だ。否定的評価は50.5%であり、肯定的評価43.6%を上回った。
「リアルメーター」の最新調査(17~19日)によると、文政権の非支持率は14日現在で52.2%だったのが、南北首脳が白頭山に登った19日には63.2%まで回復した。これが一時的なカンフル剤に過ぎないのは、青瓦台(韓国大統領官邸)も理解している。だからこそ、平壌でのパフォーマンスによって空騒ぎを演出したというしかない。
民族反逆者の証拠
21日、韓国保守派言論人の趙甲済氏(元月刊朝鮮編集長)のホームページには、以下のようなコラムが掲載された。
「南北の階級闘争勢力が『民族』を凶器化して、反共自由民主主義を否定し、大韓民国の正統性を抹殺しようとしている。民族の名前で国を解体し、自由を抑圧しようとしている」。
なぜ、金正恩は民族反逆者である、と趙甲済はいうのか。彼の回答は明快である。
「最も有力な証拠は、4つある。核兵器、脱北者、強制収容所、そして北朝鮮住民の身体である。韓国の同族よりも1人あたり10年短く生きて、身長は10cm短くなった」。20日、南北両首脳は標高2,750mの白頭山の頂上・将軍峰に登り、次のように述べたという。
「第一歩が始まったので、この歩みが繰り返されれば、より多くの人々が訪ねるようになり、南の一般国民たちも白頭山を観光できる時代が、すぐに訪れると信じています」(文在寅大統領)。
「白頭山の天池に新しい歴史の姿を込め、白頭山の天池の水が渇かないよう、この天池の水にすべて込めて、今後の北南間の新しい歴史を書き加えていきましょう」(金正恩国務委員長)。
白頭山の天池を背景に、2人は記念写真を撮り、つないだ手を高く持ち上げた。100年後の歴史は、この場面をどう評価するであろうか。いや、その結論は数年後には明らかになるかもしれない。とりあえず、米国の中間選挙以後の動向が見ものである。
(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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