『脊振の自然に魅せられて』「ジンジソウ」人字草　ユキノシタ科　ユキノシタ属

雨の日の撮影

　脊振の写真集「脊振讃歌 Ⅱ」出版に向けて準備中ですが、写真リストのなかで足りないものがあります。
　秋の花「ジンジソウ」、晩秋に渓谷沿いの山道に咲く花です。春に咲くユキノシタに似ていますが、アップで花の1つ1つを見ると愛嬌のある人間の顔のように見えます。名前の通り人の顔に似ているのです。
　同じ仲間にダイモンジソウ（大文字草）がありますが、脊振山系には自生してないようです。
　先週、金山の登山道に道標を仲間と設置に行った際、数は少ないけれどジンジソウを目にしていました。さらに登山道を進むと金山の直登ルートの水辺に
　たくさんの白いジンジソウの花が賑やかに咲いていました。道標設置を終え、ジンジソウの場所を確認し、下山しました。

　「チャンスを逃してはならない」翌日早朝に自宅を出発し、ジンジソウ撮影に向かいました。
　1カ所目の撮影は薄暗いのでISO感度を高めに設定しました。イメージ通りに撮影が終了。さらにたくさん咲いていた場所を目指します。
　しばらくすると雲行きが怪しくなり、やがて雨がポツポツと肩にあたりはじめました。「降ってきた！」重いジッツオの三脚を肩に担ぎ、急いで鎖場をよじ登って登山口から1時間ほどの場所に到着。雨よけになる樹木の下にカメラザックを降ろしました。ザック用のレインカバーがないかとザックのポケットを探るとラッキーなことに登山用ザックカバーが入っていました。使った後、仕舞い忘れていたのが幸いしました。
　レインカバーでザックを急いで覆います。黄色いザックカバーが薄暗い樹木の下で目立っていました。カメラ保護が第一です。丁寧にザックのなかのレンズを横にして雨対策を済ませます。

　そして撮影準備にとりかかります。時折、激しい雨がアノラックを叩き始めました。カメラ保護のため、カメラの上にハンカチを被せます。
　普段、雨の日の撮影ではタオルでカメラを保護しますが、今はその暇はありません。雨中の撮影は1秒でも無駄にできないのです。
　いよいよ撮影に入ります。三脚が倒れないかどうかの確認をします。慌てるとカメラごと転倒しかねません。絞りは解放値、マニュアル撮影なので、シャッタースピードはファインダーを覗いたまま手先で切り替えます。
　マクロ50ミリの撮影を終え、マクロ90ミリにレンズ交換。デジタルカメラのイメージセンサーに雨がかかるとまずいので、三脚に固定したカメラを少し下向きにして急いでレンズ交換を済ませます。
　ジンジソウにアングルを向け、一応撮影を終えました。接写のため2倍のテレコンバーターをカメラとレンズの間にねじ込みました。これで180ミリのマクロに変身、より接写距離が短くなります。足場は悪い、水たまりに登山靴を5cmほど突っ込みます。ゴアテックスの登山靴なので濡れませんでした。
　体を構えて撮影開始。ジンジソウの愛嬌があるとぼけた顔がファインダーに飛び込んできます。あちらの家族、こちらの家族と、それぞれジンジソウの家族の撮影を終えました。カメラを収納しようとした瞬間、雨ならでの光景が飛び込んで来ました。霧のなかに木々のシルエットが浮かんでいるのです。
　「これはチャンス！」暗いのでシャッターブレしないように再びカメラを三脚に固定し、3カット撮影しました。

　小一時間ほどの撮影でした。「さー、終わった！」と急いで登山口へと踵を返します。ゴアテックス製アノラックが雨を弾ききれなくなり、衣服に雨が染み込んできました。その内ズボンも濡れはじめました。
　昨日取り付けた道標が下り道を案内してくれます。雨脚は時おり激しくなりましたが、満足した撮影ができたので足取りは軽く、1時間ほど山道を下りました。
　停めていた白い愛車が見えてきたころには、全身びしょ濡れになっていました。汚れた登山靴とスパッツを沢で洗い、車のエアコン温度を高めに設定し、衣服を乾かしつつ帰宅しました。久しぶりに雨のなかで撮影しました。

撮影を終えて

　帰宅してカメラ、レンズをドライヤーで乾かし、しばらく部屋で自然乾燥しました。カメラザックの底は雨でヨレヨレになっていました。
アノラック、カメラザック、レインカバーに防水スプレーをたっぷりかけ、ベランダで天日干しにしました。
　部屋にゴミがあると思って拾ってみると小さな青虫でした。別の場所でも見つかりました。おそらくカメラザックの底に付いていたのでしょう。以前、湿原で撮影した後、ミミズやムカデを家に連れて帰ってきていたことを思い出しました。
　「カミさんに見つからなくて良かった！」

2018年10月22日　記
脊振の自然を愛する会
代表　池田　友行