2024年12月27日( 金 )

ロボット大国日本と世界のロボット市場の最新動向(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 これでは安心してヒューマノイドとの共生はできないだろう。この点はロボティックスの専門家の間でも賛否両論が戦わされているところだ。中国に限らず、アメリカ軍でもキラーロボットの研究が進んでいるようだが、自立したロボットが自己判断で動き始めた場合を想定して対策を講じておかねばならないだろう。さもなければ、ミサイルの発射から株式市場の操作まで、あらゆる分野でロボットが人間を上回る動きをしはじめる事態もあり得るからだ。

 とはいえ、カリフォルニア大学の工学部で人とロボットの共生学を教えるゴールドバーグ教授は「今のロボットは人間でいえば2歳程度に過ぎない。せいぜい単純労働を肩代わりするのが関の山。人にとって代わるほどの自己判断を下すまでに進化するのは先の話」と、一笑に付す。

 はたして、人とロボットの共生はどこまで可能だろうか。日本では産業用ロボットが主流だが、欧米でも中国でも人に直接係る分野でのロボットの進出が目覚ましい。とくに市場規模が300億ドル(3兆円強)といわれるセックス産業での市場争奪戦は激しさを増す一方である。カリフォルニアでは1体、1万5,000ドルの「愛人ロボット」が発売されている。会話の相手としても完璧で、冗談もいえば、シェークスピアの作品から気の利いた文章を引用してくれる。どんな要求にもノーと言わずに応じてくれる「究極のパートナー」というのがうたい文句となっているようだ。

 それ以外にも、ロボットの社会進出はすさまじい勢いで広がっている。法律事務所ではAIロボット弁護士が正規の弁護士資格を取得し、活躍しているのがアメリカである。過去の判例を正確に記憶する力では人はAIに勝てない。また、中国ではロボット・ジャーナリストがメディアで次々と新たなニュースを配信している。スペルミスのない要領を得た完璧な原稿を超スピードで書き上げる。

 さらには、作曲や小説といった芸術の分野にもAIロボットの進出が話題となるようになった。過去のヒット曲やベストセラーに関する膨大なビッグデータを駆使し、人々を感動させる新たな作品を生み出している。人の喜怒哀楽を科学的に分析し、人の感情を巧みに揺さぶるというわけだ。人間の喜怒哀楽を簡単に操作してしまう。

 一説では、AIが人間を超えるのは2045年前後と予測されていたが、はるかに速い段階で「シンギュラリティの時代」が到来するかもしれない。ロボットに人を愛する心を植え付けることができるだろうか。それができなければ、人がロボットに支配される事態になりかねない。そんな未来が間近に迫っているようだ。

 今年の夏、アメリカのラスベガスではカジノで働く従業員が一斉にストライキに突入した。彼らのスローガンは「ロボットに職を奪われたくない!」という深刻なもの。1時間に400人分もの特製バーガーを調理するシェフロボットが登場したのがきっかけだ。人の力を圧倒するAIヒューマノイドがあらゆる社会に進出し始めている。世界最大の人口を擁する中国でさえ、刀削麺専用のロボット調理師が活躍するようになった。

 歓迎すべきか。それとも危機感を抱くべきか。日本では「変なホテル」のロボットによる接客が話題となり、ペッパー君も至るところで愛嬌を振りまいている。確かに便利であり、文句も言わずに24時間、残業手当も欲しがらず、黙々と正確に働いてくれる。その意味では、「得難い助っ人」に違いない。

 しかし、それだけでは終わらないかもしれない。今は2歳程度の子どもだろうが、AIロボットの成長は人の想像を超えたものになりそうだ。サウジで市民権を獲得したソフィアがいみじくも本音を漏らしたように、「人間を破壊すること」も、あり得るだろう。皆さま、備えはできていますか?

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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