2024年12月23日( 月 )

韓国最高裁判決、真の「操縦者」は北朝鮮にあり~日朝国交交渉で進む南北共同作戦

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 韓国最高裁の元募集工判決をめぐって、日本国内では「韓国政府はしっかりしてくれ」といった論調が多い。判決を日韓関係の枠内で捉えているのだが、現在の韓国問題は北朝鮮の動向を含めた朝鮮半島全体の問題であることを直視していない。韓国・文在寅政権の真の操縦者は、北朝鮮であることを改めて理解すべきなのだ。本稿では、いくつかの論調を紹介しながら、全コリア的視点を提示し、さらに朝日新聞の社説を批判したい。

 まず視野狭窄の「解説」を指摘したい。
 朝鮮日報日本語版(11月3日付け)に掲載された木宮正史・東大教授とのインタビュー記事である。同紙東京特派員の質問に答えたこともあって、論点が日韓関係に与える影響だけに限定されている。「韓国人は、この判決がどれだけ深刻なのかを認識できていない」云々である。これはすでに新聞記事でも書いていることだから、東大教授におしえてもらうほどのことではない。問題なのは、北朝鮮に関する論及が欠けている点だ。
 まず安倍首相が指摘したように、この訴訟の原告は「元徴用工」ではないことを抑えておきたい。八幡製鉄(当時)の募集に自分の意思で応じた「元募集工」なのである。

 彼らの実態とは何だったのか。重村智計(元早稲田大教授)が、興味深い逸話を紹介している。八幡製鉄で働いた在日朝鮮人が言っていたという言葉だ(日経ビジネスオンライン)。
 「太平洋戦争の時、八幡製鉄(現・新日鉄住金)で働いた。日本が敗戦し帰国する際は退職金が出た。送別会で餞別ももらった。強制労働はなかった。日本人には話すな」
 こういった話は在日朝鮮人社会で、ひそかに語り継がれてきた事柄だ。この朝鮮人は「募集」か「官斡旋」で八幡製鉄にきたのだろう。帰国したが仕事がなく、密航して再び日本にきたという。こういったリアルな話が出始めたのは、結構なことだ。

 韓国大法院(最高裁に相当)の判決も、きちんと読もう。
 判決は「原告は未払い賃金や補償金を求めているのではない」と述べ、「慰謝料請求権」を認めた。誤解されているような「元徴用工の賃金未払い訴訟」ではない。八幡製鉄で働いたという朝鮮人の屈辱(?)への慰謝料を請求し、最高裁がそれを認めたのである。笑止千万の判決に近いのだ。

 韓国最高裁判決を一番喜んでいるのは、北朝鮮だ。
 対日国交交渉に臨むスタンスを、韓国内で整備してくれたからだ。文在寅政権は曲がりなりにも1965年体制を守らなければならない。当時の朴正熙政権も日本の植民地支配の不当性を非難したが、植民地支配そのものは合法的だったという壁は突破できず、妥協した。北朝鮮も小泉首相―金正日の平壌宣言で、事実上、協力金(慰謝料)路線に転換していたのである。最高裁判決はもともと北朝鮮の路線そのものなのだ。
 文政権にとって第一義的なのは、南北連合政府の実現である。日韓関係は従属変数であり、テコであり、布石である。

 多くの日本人は忘れているが、韓国との条約は北朝鮮には適用されない。
 日本は北朝鮮との国交樹立(安倍政権もそれを望んでいる)の際には、莫大な「植民地補償金」を、またぞろ要求されるのだ。その金額を釣り上げるためにも、今回の韓国最高裁判決はとても有用なのである。なぜ、こういったわかりやすい構図を「専門家たち」は指摘しないのだろうか。専門家とは利害関係者の別名である。本当に国民にとって必要な話をしないのだと弁えておきたい。
 ちなみに「植民地補償金」を払う必要がないのは、1965年当時も今でも変わりがない。日本の朝鮮植民地支配は、大日本帝国と大韓帝国の合併条約で合法的に行われたからである。だから今回の判決でも「補償金」ではなく、「慰謝料」としたのだ。

 日本人が今回の韓国最高裁判決から学ぶべきレッスンは、朝鮮半島はノースコリア主導で動いている事実だ。理念的(民族ナショナリズム)に、韓国(文在寅政権)は北朝鮮に引きずられている。そのすべては、日本の植民地転落と支配から自ら脱することができなかったというトラウマから出ている。北朝鮮にしても、金日成の人生は嘘で塗り固められていることを、今どきの韓国人は知らない。
 韓国の状況を見ていると、左翼の嘘を見抜く力は依然として重要である。文在寅大統領は若いころ、左翼評論家イ・ヨンヒの著作を読んで影響を受けた。この朝鮮日報元外信部長がいかに貴族趣味の男だったか、その私生活までは知らないのである。

 朝日新聞の社説は、誰が書いているのであろうか。呆れた社説だ。
 韓国最高裁の「元募集工」判決をめぐって、朝日新聞だけ結語の矛先を日本政府に向けているのである。引用すると、以下の通りだ。

<日本政府は、小泉純一郎政権のとき、元徴用工らに「耐え難い苦しみと悲しみを与えた」と認め、その後も引き継がれた。政府が協定をめぐる見解を維持するのは当然としても、多くの人々に暴力的な動員や過酷な労働を強いた事実を認めることに及び腰であってはならない>

 つまり、結語は、日本政府への注文なのだ。この社説は元募集工訴訟という韓国内の個別的問題を論ずるにあたって、おかしな贖罪的な歴史観を導入して、問題の本質を曖昧にしたのである。こういう姿勢は、今後の日韓関係をさらに危ういものにする。

 さらに重要な点がある。
 朝日社説は「徴用工らに『耐え難い苦しみと悲しみを与えた』」と認めた首相発言を小泉首相のものとして記述しているが、これは海部、宮沢政権時代の言い回しだ。小泉政権時代は「多大の損害と苦痛」と言っていた。初歩的な引用ミスまで駆使して、おかしな議論を展開しているのである。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

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