2024年11月24日( 日 )

岐路に立つ孫正義氏の投資家人生 サウジから吹きつける突風に「高転び」の危機(後)

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アラムコのIPO計画は中止か

 サウジに暗雲が立ち込めた。サウジの王子たちが逮捕され、資産が没収されるなど、皇太子による粛清の嵐が吹き荒れ、皇太子の経済改革を否定する報道が相次いだ。

 ロイター通信(18年8月22日付)は、「サウジアラビアが国営の石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)計画の中止を決定した」と関係者の話として報じた。

 アラムコのIPO計画は、皇太子が進める経済改革の目玉だった。アラムコが上場すれば、株式時価総額は2兆ドル(210兆円)を超えると言われた。上場で得た資金を経済改革に充てる計画だ。上場が中止になれば、皇太子が進める「ビジョン2030」構想は消し飛ぶ。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版(18年9月30日付)は、「サウジアラビアがソフトバンクグループと計画していた太陽光発電事業への2,000億ドル(約22兆7,000億円)の投資を棚上げすることを決めた」と報じた。

 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は18年3月27日、世界最大となる太陽光発電事業への投資で覚書を交わした。サウジの政府系ファンドも出資するソフトバンク・ビジョン・ファンドが資金を拠出。まず50億ドルを投じ、2019年までに2つの太陽光発電所をつくる。ソフトバンク・ビジョンの資金で、2030年には最大200ギガワットの発電能力を備える計画だった。その計画が半年で反古になるという報道だ。

 ムハンマド皇太子は、一連の報道に反撃に出た。ブルームバーグ通信(18年10月6日付)とのインタビューで、「サウジアラビアがアラムコIPOを取りやめた、あるいは延期した、ビジョン2030が遅れているとの噂は誰もが耳にしている。これは正しくない。アラムコのIPOは2021年まで実施する」と語った。

   皇太子はソフトバンク・ビジョンに450億ドルを追加出資する方針も明らかにした。

 サウジアラムコのIPOが二転三転する報道は、サウジ王族のなかで、ムハンマド皇太子の経済近代化計画に激しい抵抗があることを覗わせた。

サウジ記者殺害事件で、皇太子は海外での信頼を失う

 10月2日、サウジアラビアの反体制記者ジャマル・カショギ氏が、トルコのサウジ領事館で殺害された。複数の米メディアは11月16日、「米中央情報局(CIA)が、殺害はサウジのムハンマド皇太子の命令だったと結論づけた」と報じた。サウジ政府は皇太子の関与について躍起になって否定している。
カショギ事件で、皇太子は海外での信頼を完全に失った。皇太子が進めてきた「ビジョン2030計画」が見直されることは避けられない。

 孫正義氏は、皇太子と2人三脚で10兆円ファンドを、次々と立ち上げて100兆円ファンドにする構想をもっていた。だが、サウジの大混乱で、構想が空中分解する可能性が高い。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが、求心力を失うことは必至だ。

 孫氏はムハンマド皇太子との関係に前のめりになり、深入りしすぎた。普通の経営者なら怖じ気づくものだが、ここぞと決めたら、突っ込んでいく。これが、孫正義氏が人生で貫いてきた勝負師の心意気だ。孫氏はかつて意味深長な言葉を残している。

 「すってんころりんと転ぶかもしれない。しかしめざしたものがそこにあれば、死ぬ5分前に、ああ、楽しい人生だったな、はるかに有意義な人生だったと、思える気がする」。

(了)
【森村 和男】

(前)

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