2024年11月24日( 日 )

石油から水へ 今こそ『水力(ウォーター・パワー)』を味方につける(3)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

「3つの水問題」を考察する

 まず、第一の水ビジネスに関し、日本に国際競争力がないことについて考えてみたい。

 これまで日本の水関連企業は汚水の浄化、節水やリサイクルの技術、海水の淡水化に欠かせないRO膜の技術などで、世界の技術開発をリードしてきた。たとえば、水源地のないシンガポールにとって、海水の淡水化や家庭、工場の排水の再利用に不可欠な浄化システムはほとんど日本発の技術でまかなってきたものである。中近東や北アフリカあたりでも、日本の水技術は高く評価されている。日本が天然ガスを輸入するカタールにおいては海水の淡水化プロジェクトは日本企業の独壇場となって久しい。

 しかし、欧米の水メジャーが仕掛ける大規模な水ビジネスのなかで、日本は単なるパーツの提供、納入業者の地位に甘んじてきた。言い換えれば、最も儲かる水道事業の管理、運営の部分はことごとく世界の三大水メジャー(テムズウォーター、スエズ、ヴェオリア)に押さえられてきたわけだ。

 実は、水をめぐる世界的なビジネスの流れを受け、日本でもようやく欧米の水メジャーに対抗すべく、官民が力を合わせ、水事業ファンドを立ち上げる準備が始まった。具体的には、経済産業省が、国際協力銀行(JBIC)や野村ホールディングス株式会社に呼びかけ、この分野でノウハウをもつオーストラリアの投資ファンドとともに、水事業に特化したファンド設立を進行中である。最大1,000億円規模の資金を調達し、日本の水企業の海外事業展開を支援する段取りだ。

 このファンドにより、技術の蓄積がありながら海外市場でのビジネス展開に後れをとってきた日本の水企業群の受注件数を倍増しようとするもので、水ビジネス市場の新機軸として注目を集めている。今後の展開と成果を大いに期待したいものだ。東京都もベトナムに対して、水道事業面での技術協力を進めるなかで、日本の水管理システムの売り込みに余念がない。

 次に、第二のバーチャル・ウォーターを大量輸入していることについて。
 バーチャル・ウォーターとは、食糧生産に欠かせない水のことである。海外から食糧を輸入する際、日本は間接的に水も輸入している。従って、この水問題は食糧問題のことに他ならない。資源小国といわれる日本にとって、食糧自給力の問題は避けられない。食糧生産に水が欠かせないことを考えれば、食糧安全保障の観点からも、水問題を疎かにするわけにはいかないだろう。

 このところ環太平洋経済連携協定(TPP)はアメリカが離脱したため、日本が主導するかたちでTPP11として動きが加速している。日本の農業技術や経験を海外に普及するうえでも、水問題への解決を図るという視点を抜きにすることはできないはず。なぜなら水田の劣化と水の確保はコインの表裏の関係となっているからである。

 日本の稲作は縄文時代からの長い歴史に裏付けられている。水田の連作障害を避けるため、一定の期間、田んぼへ水を張り、酸素がないと生きられない病原菌の活動を抑える営農技術が伝承されてきた。水こそ稲作の命のもと。土地を生かすも殺すも水次第といえる。

 農地は貴重な生産資源である。1960年のデータによれば、世界では1haの耕地が2.5人の胃袋を満たしていた。それが2005年には4.5人に増え、2050年には6人強を支えなければならなくなると予測されている(国連食糧農業機関web)。

 ちなみに、日本では1haの耕地から収穫される食糧が29.2人分の胃袋を支えている。その見えざる最大の貢献者こそ水に他ならない。だからこそ、自然と共存できる、日本の農業を守らなければならないと強く思う次第である。

 最後に、第三の中国の水不足と汚染の問題に触れておきたい。
 世界最大の人口を抱える中国では、年々砂漠化の進行が加速しているおり、このままでは近い将来、人口の60%が砂漠に飲み込まれかねないほどだ。この問題を克服しなければ、中国の農業生産は改善されないし、黄砂による健康被害も広がる一方である。我が国にも深刻な環境被害がおよんでいる。

 日本は1998年に国連砂漠化対処条約への参加を批准、資金協力と技術協力を約束し、中国を始め、各国にさまざまな支援活動を続けている。この分野でも、日本は中国に対して環境技術移転という外交上の切り札をもっているわけで、中国の一般国民を味方につける広報宣伝戦を強化する必要があることは論を待たない。

(つづく)

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